正直、ブログに書くトピックとしては、あまりに遅いが(^^)、その振り返りを書いておきたい。
スーパーバンタム級(55.54kg)転級初戦にして、無敗、しかも、ブランドン・フィゲロア、ダニエル・ローマンといった実績のあるボクサーに勝ってきた、スティーブン・フルトン(WBC・WBO同級チャンピオン)と激突。
長年、その強さに見合うだけの相手を渇望してきた井上にとって、プロキャリア25戦のなかでも、最も「敗北」という可能性もあり得る相手。
もちろん、フルトンのKO率を見るとKO負けのようなことはほぼ考えにくいが、井上のパンチがすかされ、そのまま最後までズルズルと行くこともあるのでは。
階級アップにより、井上のパンチのアドバンテージも、これまでほどは無いかもしれない……。
そんな試合前に思っていた不安要素を、ただの一度も感じることなく、井上が完勝した。
試合内容については、すでに色々なところで語られているので、細かくは触れない。
ただ、自分が一番驚愕したのは、試合後の井上の「(中盤、あえて)ペースを落とした」というコメント。
試合を見ていて、5Rぐらいから「フルトンが本来の力を発揮し始めてきた」と感じていた人は、専門家や記者も含めて多かったと思う。
自分も、その技術力も含め「さすが、フルトン」と感じていた。
しかし実は、それは、釈迦ならぬ井上の手の平で踊らされているに過ぎなかった。
序盤は、ペース、ポイントを譲らず。その後、中盤は、フルトンに出てこさせる状況を作るために、ペースを落とし、フルトンが出てきたところを叩く。
もちろん、圧倒的な力の差があれば、こうしたことも可能かもしれない。
ただ、相手は実力者のフルトン。ボクシングにおいて、相手にペースに与えることは致命傷にもなりかねない。
しかし現実には、キャリア史上最難敵と思われたフルトンとの「圧倒的な力の差」を証明してみせた。
そして、その「強さ」が、ただのポテンシャルだけではなく日頃の「鍛錬」と、標的とする試合に向けてのチームのメンバー含めての「戦略」、『自信』はあっても『過信』はない「精神面」に支えられたものであることを今回も見せてくれた、井上尚弥。
「本当の『強さ』に『虚勢』はいらない」ことを体現してくれる姿は、本当に「格好よく」見える。
なお、試合後のリングには、WBA・IBF級チャンピオンであるタパレスが上がり、今年末での統一戦実現の機運を高めた。
さらに、大橋会長は、今後の対戦候補として、カシメロ、ネリの名も口にした(その後、井上尚弥自身も、今後の対戦相手として、これらの選手の名前を挙げた)。
ただし、タパレス(フィリピン)、カシメロ(フィリピン)、ネリ(米国)は3名とも、過去に、試合での体重超過の前歴があることは気に留めておく必要があるだろう。
さらに、カシメロ、ネリは、ドーピングの可能性も疑われる。
その意味では、これらの選手との対戦には、体重超過やドーピングについて、かなり綿密な契約を結んでおくことが必要となるのではないか。
そうした要素を考えると、タパレスはともかく、カシメロとネリとの契約は、そうそう簡単にまとまらないかもしれない。
ネリに関しては、6年前に、山中戦での体重超過により、JBCが日本での活動について永久停止とした経緯もある。
大橋会長のコメントを聞く限り、ネリ戦についても日本で考えているように見えるが、果たして、再びアメリカのリングに立つことも考えているのだろうか。
正直、度重なる体重超過、さらには、ドーピングの疑惑も晴れていないことを考えると、ネリとの対戦の是非は「是」と言い難いところがある。
ただし、ネリ戦でないにしても、このままキャリアの最後まで、井上尚弥が日本国内で戦い続けるのは、世界のボクシングファンへのアピールという意味ではあまりに勿体ないとも思う。
なお、他の同級の強豪としては、アフマダリエフ(ウズベキスタン)、アリーム(米国)がいるが、両選手とも、判定とはいえ、前戦で初黒星を喫したことで格が落ちた印象は否めない。
なお、両選手が敗戦を喫した、アフマダリエフ vs タパレス(WBA・IBF世界タイトルマッチ)、アリーム vs グッドマン(オーストラリア)(IBF世界タイトル挑戦者決定戦)の試合は、アリーム対グッドマンの方がレベルが高く見えた。
その意味では、グッドマンとオーストラリアで戦い、その強さをオーストラリアのファンにも体感してもらうという選択もあるのでは、とも思った。
ただし、実現したとしても、同じオーストラリアのジェイソン・モロニー戦(モロニーが粘るも、井上が7R KO勝利)のようになる可能性が高いとは思うが。
現時点では、井上自身、「まだ数年は、スーパーバンタム級で」という姿勢を崩していないが、フルトンを早々に撃破。交渉の状況により、今後、魅力的な相手との対戦がなかなか決まらない場合は、現時点での予想より早く、1階級上のフェザー級(57.15kg)への転級が早まる可能性もあるだろう。
ただし、現在のフェザー級を見ると、強豪ではあるものの、いま一つインパクトに欠けるレイ・バルガス(メキシコ)、フルトンに敗戦を喫しているフィゲロア(米国)、世界チャンピオンとしてはまだキャリアが浅いルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)やリー・ウッド(英国)という顔ぶれは、必ずしも心躍るものとは言えない。
そうしたなか、今後の展開によっては、井上vsフルトンのセミの試合で清水聡に力の差を見せつけた、ロペイシ・ラミレス(キューバ)との対戦は、ある程度ファンの期待を満たせるものになり、かつ、対戦の可能性も高いカードかもしれない。
いずれにしても、これだけ圧倒的な強さを見せつけられると、実現の可能性はほぼゼロに近いが、現在はライト級(61.24kg)まで階級を上げたジャーボンテイ・デイビス(米国)の名が取り沙汰されてしまうのもやむ無し、といったところか。
それこそ、現実的な対戦での敗戦の可能性となると、数年後、井上の力がもし落ちた時に、階級を上げてきた中谷潤人に敗れる、といったことぐらいしか想像できない。
さて、最後に、井上から少し離れて、今後のボクシング界のことについても触れたい。
今回の井上尚弥の試合は、映像配信サービス lemino で放映された。
自分の場合、ハナからリアルタイムで見ることはできなかったので、前の試合も含め追いかけ再生で見たのだが、途中、インターバルの部分を早送りしようとすると、かなり反応が遅いのには閉口した。
そして、井上vsフルトン戦直前のフルトンを取材したVTRの部分でストップ。その後、何度も試みても、同じところで停止。
結局、一度終了して再び開いたところ、見ることができたため、「結果を知った後で視聴」という最悪の状況は回避することができたが、画質も含め、大きな不満を感じた。
なお、来週9/18に行われる、寺地拳四朗、中谷潤人の世界戦、また、那須川天心の第2戦は、prime videoのボクシング中継第5弾として配信される。
先日の井岡一翔の世界戦も、ABEMA、さらにはPPVでの配信となり、もはや、地上波どころか、テレビ媒体での有力選手の世界戦自体が皆無になりつつある。
一番大事なポイントは、そうした流れが、ボクシングファンの拡大につながっているか、ということ。
配信サービス会社の参入で、ボクサーのファイトマネー含め、ビジネス的には大きな額の話も聞こえてくるが、日本国内での試合も含め、ボクシングの試合放映がほぼ配信サービスに移行している状況が、果たしてボクシングファンの増加につながっているか。そこを、ボクシング界自身がしっかりと分析していかないと、せっかくの井上尚弥人気も、ボクシング人気の向上にはまったく繋がっていないということにもなり得る。
この件に関しては、まだまだ書きたいことがあるが、長くなってしまうので、次の機会にしたい。
ただ、現時点でどうしても書いておきたいことは、下記の3つ。
●ボクシングを見る環境が細分化されている(WOWOWも含め)現在の状況は、新規のファンにとっては、相当敷居が高いのではないか。
●現在のボクシングは、情報強者と情報弱者の差がありすぎる。ボクシングを見る眼云々というより、情報強者であるかどうかで、そのスポーツについてモノが言えるかどうかが決まってしまうようなスポーツは、多くの人には広がってはいかない。
●ボクシング人気の拡大について議論されるときに、「マニア」か「一般層」という二分化がされがちだが、大事なのは、その間の「スポーツ好き層」に、いかにボクシングに興味を持ってもらえるか。