先週、今週と、日本人選手が出場するボクシングの世界戦が立て続けに行われた。
一番注目されたのは、やはり井上尚弥の試合だったが、その他の2試合も、日本ボクシング界にとって、意味の大きい試合だったと思う。
「世界戦」の意義を改めて感じた3試合を振り返ってみる。
●IBF世界スーパーフェザー級(58.97kg)タイトルマッチ
尾川堅一(王者)vs ジョー・コルディナ(英国・3位)
昨年11月に、ニューヨークで、アジンガ・フジレ(南アフリカ)を下し、2017年に一度はつかみかけた世界王座を、ようやく手にすることができた尾川。
初防衛戦は、完全アウェイとなるイギリスの地。
ただ、コルディナのKO率がそこまで高くないこと。また、ガードが堅いとまでは言えないものの、致命的なパンチは食わない印象のある尾川ということもあり、敵地という厳しい条件ではあるが、KO負けはないと考えていた。
しかし、結果は、2R、コルディナの右ストレートをまともに食らい、2回1分15秒でのKO負け。
試合後のコルディナのコメントを聞くと試合前から狙っていたパンチだった模様。
尾川の一瞬の”無意識”の隙を、ものの見事に突いた一撃となった。
内藤律樹とのファーストコンタクトを
間近で見た身にとっては、非常に残念な敗戦。
と同時に、1Rから、両者とも非常にスピードがあり、かつスリリングな攻防を繰り広げていただけに、「もっと長くこの攻防を見ていたかった」という意味でも、残念だった。
それにしても、ゴングが鳴っても観客が「Seven Nation Army」を歌い続ける光景は、日本では、なかなか見ないもの。
「ボクシングの本場」というと、アメリカのリングを指すことが多いが、英国のリングも、かなり刺激的なリングに見えた。
なお、日本人の英国の地での英国人との世界戦は、今回の尾川の一戦を含めて、0勝6敗とのことである。
試合後の尾川のコメントを見る限り、今後については、直ぐには決められない心境がうかがえる。
軽量級においては、世界上位に位置するボクサーも多い日本人ボクサーだが、スーパーフェザー級以上で世界を狙える選手となると、かなり少ないのが現状。
それこそ、世界に手の届く可能性があるボクサーと考えると、村田諒太を除けば、中谷正義ぐらいではないか(三代大訓、吉野修一郎、井上岳志が、次のステージを狙ってはいるが)。
「今後、スーパーフェザー、あるいはライト級以上の世界ランカークラスを、どうやって育てていくか」
日本人の強豪クラスが海外で試合をすることが珍しくなくなってきつつある状況下、日本ボクシング界が、業界全体で取り組んでいくべき課題だと思う。
●WBAスーパー・WBC・IBF世界バンタム級(53.52kg)王座統一戦
井上尚弥(WBAスーパー&IBF王者) vs ノニト・ドネア(WBC王者・フィリピン)
その間、井上は、3度の防衛を果たしたが、対戦相手は強豪とまでは言えない相手(モロニー戦は、7RでのKOながら、そのボクシングのレベルの高さを見せつけた試合ではあったが)。
一方のドネアは、WBC王者であったウバーリを4Rで沈めた試合を含め、行った2試合とも、インパクトのある勝ち方だった。
井上尚弥の凄さは分かっているが、ドネアの力もまた侮りがたし。井上が圧倒的な力を見せつけるのか、それとも……。
1R、最初にインパクトを見せたのは、ドネアだった。
中間距離からの、高速の左フック。
試合後、井上が「ピリついた」とコメントしたように、この試合が高いレベルで行われることが確約された一撃とも言えた。
最終結果の衝撃が強かったがゆえに忘れられがちだが、1Rの両者の距離の取り合い、パンチの交わし合い、且つよけ合いは、非常に緊張感のあるものだった。
試合後の長谷川穂積の解説をはじめ、プロの解説だったり、あとでスローで確認して、ようやく何が起きていたかがわかる。それほど高次元での攻防だった。
だが、1Rも終了間際、井上の右がドネアのテンプルにヒット。
ドネア、ダウン。
立ち上がったところでゴングとなったため、1Rでの決着とはならなかったが、井上が極めて大きなアドバンテージを握った。
この右も、そのときはわからなかったが、スローで見返すと、井上のワンツーのワンに対し、ドネアがダッキングでよけようとしたところを、井上がワンを打つのを瞬時にやめて、ツーをフックぎみに打つという、恐ろしく高い次元のことをやっていた。
2R、圧倒的優位とも思えた井上だったが、無理には行かない。
ドネアも、ややダメージを感じさせつつも、井上の隙を狙って打ち込もうという意志が感じられた。
しかし、一瞬のスピードと、すべてのパンチに重さを感じるパワー。且つ、絶対に危険な位置に自分の顔を持ってこないという「隙を削ぎ落す姿勢」が、ドネアの反撃を許さなかった。
2回1分24秒、井上尚弥TKO勝ち。
試合の短さだけでは語れない、濃密な264秒だった。
試合後、バンタム級での4団体統一、それが実現できなければ、スーパーバンタム級への転級を示唆した井上。
翌週には、リング誌のパウンドフォーパウンド1位にも選ばれた。
報道では、次戦について、日本国内でのWBOバンタム級王者ポール・バトラー(英国)との対戦が報じられているが、個人的希望としては、英国の地でバトラーとの対戦が見たい。
パウンドフォーパウンド1位となった井上だが、今後は、世界に向けてどれほど知名度を挙げられるかが、ボクサーとして重要なポイントではないか。
さきの尾川戦のところで触れたが、日本人の英国での英国人ボクサーとの試合は、勝利なし(2019年に、井上が英国で対戦したエマヌエル・ロドリゲスはプエルトリコの選手)。
そうしたことはともかく、英国、さらに米国のボクシングファンに、直に"Monster”の凄さを体感してほしい。
ビジネス的には、日本開催の方がいいのかもしれないが、パウンドフォーパウンド1位に挙げられる存在となった今、井上がさらにボクサーとしての格を上げるためにも、海外のリングで戦う姿が見たい。
●WBA世界ライトフライ級(48.97kg)王座統一戦
京口紘人(スーパー王者)vs エステバン・ベルムデス(正規王者・メキシコ)
2018年にライトフライ級の王座を獲得してから、4度目となる防衛戦。
前戦は、アメリカの地で、メキシコとの選手(アクセル・アラゴン・ベガ)との対戦で、相手の右拳負傷によるTKO勝ちという、すっきりしない結末だったが、今回の試合は、正真正銘のアウェイ戦。
過去の戦績的に、京口優位とする声が大多数ではあったが、過去にマカオでの試合はあったものの、完全アウェイという状況は初めて。判定になったときの怖さも考えると、決して楽観視できない一戦だった。
試合は、序盤から、京口が攻勢を見せる展開。
ベルムデスが早々に頭から出血したこともあり、京口の優勢が続く展開に見えた。
いつもの試合どおり、休まずパンチを相手に浴びせる京口。特に、アッパーが入っていた。
一方で、時折、ベルムデスのジャブや頭部横へのパンチを浴びるシーンもあり、これは今後の課題か。
ラウンドを重ねても、パンチを出す勢いが衰えない京口だが、6回にバッティング、7回には後頭部へのパンチで、減点をとられる。
しかし、8R、京口のラッシュで、ベルムデスの手が出なくなったところで、レフェリーが試合を止めた。
なお、7Rまでのスコアシートでは、京口の1ポイントリードが2人、ベルムデスの1ポイントリードが1人。
減点2があったとはいえ、やはり敵地での判定は何が起こるかわからず、KOで倒し切ったことは、大きく評価されるべき点だと思う。
今後については、WBC王者である寺地拳四朗との統一戦、WBO王者であるジョナサン・ゴンサレスとのアメリカでの統一戦が報道されているが、軽量級ながらアメリカでの試合ができるチャンスということを考えると、後者を選んでほしいとも思う。
もちろん、拳四朗との統一戦も、ボクシングファンにとっては興味を惹かれる試合だが、果たして、高いレベルにあるこの両者の魅力を多くの人に届けられる環境を、日本ボクシング界が作ることができるか。
それこそ、京口は、そのボクシングスタイルを考えると、時代が時代ならば、もっともっと人気が出るボクサーだと思う。
ただ、現状は、地上波(深夜帯を除く)でその試合が放送されたのは、2018年のブトラー戦が最後。
その京口自身は、SNSであったり、自身のYouTubeチャンネルで、積極的に自ら発信をしている。
今や、ボクサーは、「世界王者になったから有名になる」という時代ではなく、世界王座如何を問わず「いかに自分のことをプロデュースしていくか」が大事になっている、と言えるか。
いずれにしても、その実力を考えても、もっと評価されていいボクサーである、京口。
今後、どこまで、自身の道を切り開いていけるか。
と、3つの世界戦を振り返ってみたが、今回の3試合に共通しているのは、いずれもテレビの地上波放送がなかったということである。
海外で行われた試合に関しては、もはや、井岡一翔の試合を除いては地上波での放送は皆無といっていい状況ではあるが、一般層でも知っている存在である井上尚弥の試合も、一度地上波での実績のあるカードだったにもかかわらず、今回は動画配信という放送形態となった。
放映権料や広告枠確保といった、放送局事情については、詳しいことはわからないため、ここでは触れることはしない。
ただ、今後、PPV方式への移行ということが進むかもしれない、となったときに、一般層への認知とのバランスをどう図っていくかというのは、ボクシング業界全体で考えていくべき課題ではないか。
なお、ボクシング人気について議論される際、よく「コアなファン」と「一般層」に二分されることが多いが、実は、その間の「(ボクシングについては知らないが)スポーツが好きな層」が重要だったりもする。
ただ、そうした層は、すでに、他のスポーツを見るために、有料放送の契約をしており、そこでボクシングを見るためにさらにお金を払うか、ということも考えなければいけないだろう。
人気に厚みを出すためには、世界戦だけでなく、国内戦に興味を持ってもらうことも重要なのだが、興行によって放送のプラットフォームがまちまちなため、初見の人には非常にわかりにくいという現況の改善も必要だと思う。
いずれにせよ、これまでのドメスティックな「世界戦」から、「世界地図」のなかの「世界戦」というものを強く感じた、今回の3試合。
魅力ある日本のボクサーが、世界にも日本にも、どんどん知られていく。
のちに振り返ったときに、そうした流れが作られる一つの転換点となる、2022年6月になればと思う。
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