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吉野修一郎vs伊藤雅雪、中谷潤人vs山内涼太、そして、ゴロフキンvs村田諒太。

2022年4月10日、さいたまスーパーアリーナ。

吉野修一郎 vs 伊藤雅雪の、東洋太平洋&WBOアジアパシフィック・ライト級タイトルマッチ。
中谷潤人 vs 山内涼太の、WBO世界フライ級タイトルマッチ。
そして、ゲンナジー・ゴロフキン vs 村田諒太の、WBA&IBFミドル級統一戦。

1日のボクシング興行で、これだけ濃密な3試合を見たことはあっただろうか。

いまだ、静かな興奮が冷めないなか、1試合ずつ振り返っていく。


吉野修一郎 vs 伊藤雅雪

ボクシングファンの一番の好物である、「世界に手が届くかもしれないレベルでの、国内の強豪同士のマッチアップ」。
ある意味、今回の3試合のなかで一番予想が拮抗した試合だったかもしれない。

吉野は、ここまで14戦全勝(11KO)。3戦前の富岡樹戦でダウンを喫した経験はある(その後、TKO勝利)ものの、その後、ベテランの細川バレンタイン、ホープの仲里周磨を下す。
一方の伊藤は、世界王座陥落からの復帰後、三代大訓戦で痛い敗北を喫すが、その後の細川バレンタイン戦に勝ち、世界王座を目指す立場にギリギリ踏みとどまったという印象。
上がり目としては、吉野に若干の分を感じるが、伊藤も、一度は世界を手にし、かつ負けた3敗も、内藤律樹、ジャメル・へリング、三代と、いずれも判定での敗戦ということで、予想が難しい試合だった。
なお、この両者、内藤vs尾川堅一の第1戦が行われた2015年12月14日、伊藤がセミで東洋太平洋タイトルマッチ(vs江藤伸悟戦)を、そして、吉野はデビュー戦を戦っている。

試合は序盤から拮抗。
どちらとも言えないラウンドが続く。
4ラウンドを終わって、自分の採点では、時折吉野の顔にヒットするパンチの印象をとって、伊藤の2ポイントリード。
しかし、4ラウンドを終えての公開採点では、2者がドローで一人が吉野の2ポイントリード。自分の採点とは違ったが、自分が伊藤につけたラウンドいずれも「どちらが取っても…」と思っていたので、予想の範囲内とも言える採点ではあった。
ただ、伊藤が早い段階で鼻血を出したのは、印象的にも、またその後の伊藤のパフォーマンスにとっても、大きかったか。
中盤戦も拮抗したラウンドが続くが、解説の長谷川穂積氏は、バリエーションの少ない伊藤に比して、吉野のパンチの多彩さを評価していた。
8回を終えての採点は、一人がドローで、二者が吉野の2ポイントリードと、差はそこまで離れず。
しかし、伊藤がバッティング、そしてヒッティングにより、目の上部をカット。見た目としては、伊藤が徐々に追い込まれているようにも見えた。
そして、10回、11回と、徐々に、伊藤が吉野に圧される場面が目立ち始める。
攻めのバリエーションを考えると、伊藤の盛り返しは少し厳しいかという思いがよぎったところで、バッティングにより、試合が終了。
読み上げられた採点は、106-103、107-102×2と、3-0で吉野。世界を目指す国内強豪同士の対決を制した。

中盤まで拮抗した試合ながら、試合終盤、ある程度明確な形で、伊藤との差を見せて勝利した吉野。
ただ、中谷正義の長身を生かしたスタイルのような、はっきりしたストロングポイントが見えにくい部分もある(KO率は高いが)。
また、世界レベルの強豪と戦う場合、今回、伊藤に浴びたようなパンチが致命的な一打となる可能性もある。
さらに言えば、国内の同級のボクサーを見回すと、前述の中谷、そして2年前、伊藤に勝利した三代、鈴木雅弘とのホープ対決を制した宇津木秀と、まだまだ強豪がいる(4年前、「熱いぜ!スーパーフェザー」という記事を書いたが、世界での注目度を考えても、今は「熱いぜ!ライト級」と言ってもいいかもしれない)。
海外での強豪との試合となると、それなりのコネクションも必要となると思われること、そして、新型コロナウイルスの影響で、どこまで海外の試合を組むことができるかということとも相まって、今後、国内での強豪との対決、海外に打って出ての強豪との対決、いずれの道を歩むのか、注目されるところである。

中谷潤人 vs 山内涼太】

12月の防衛戦が延期(一時中止)となり、7か月ぶりの試合となった中谷だが、1Rから、そのスペックの高さを存分に見せつける。
対する山内涼太が8勝(7KO)1敗という戦績ながら、世界レベルでの実力が未知数だったことを差し引いても、そのボクサーとしての可能性の大きさを改めて感じたボクシングファンは多かっただろう。
それこそ、現時点でのレベルはまだ違うかもしれないが、個人的には、新井田豊戦で、初めてロマゴンのパフォーマンスを見たときの衝撃に近いものがあった。
遠くから、見えないスピードで相手の顔を跳ね上げる。そのパンチの種類も多彩。さらに接近戦でも、隙間から相手の顔面や体にパンチを捻じ込んでいく。山内の眼の周辺は、それこそ「はじめの一歩」に登場するボクサーのように見る見る変色していった。
山内も中盤、意地を見せ、中谷との近距離での戦いに持ち込むが、中谷の優位は変わらず。これが井上尚弥の言っていたように、中谷があえて接近戦での戦いを試していたのであれば、ボクサーとして、とてつもない大きな懐を持った選手とも言える(その後の本人のインタビューでは、少し集中が切れてしまったという反省の弁もあったようだが)。
8回TKOまでのそのパフォーマンスは、まさに「圧巻」だった。

井上尚弥、村田諒太、井岡一翔の存在で、活況を呈しているようにも見える日本ボクシング界だが、村田、井岡はキャリアの終盤に差し掛かっていると言ってもよく、次代のホープの存在が待たれる状況。
そんななかで見せた今回の戦いぶりは、日本のボクシングファンにとって、かなり明るい光だといっていい。
(なお、2020年・2021年は、コロナの影響もあって、年1試合に留まったが、24歳にして、すでに23戦(全勝18KO)というキャリアの積み方も、日本のボクサーのなかでは異色といってもいいかもしれない)

否応なく「今後」への期待が高まる中谷だが、フライ級にビッグネームと言えるまでの存在がいないことを考えると、本人が示唆しているように、早期のスーパーフライへの転級もあるか。
所属ジムが大手ではないだけに、どのようなマッチメイクをしていくかが気にかかるところだが、有力プロモーターの力を借りつつ、さらなる高みでの戦いが見たい。

なお、世界王座を獲得した試合はジータス、アコスタとの初防衛戦はWOWOWでの放送ということもあり、もしかしたら、その試合ぶりがボクシングファン以外の眼にも触れたのは、今回が初めてと言ってもいいかもしれない。初見の人のなかには「日本にこんな強いボクサーがいたのか」という印象を持った人もいるだろう。
「世界を獲る前からある程度の知名度を持っていないと、世界を獲ったとしても知名度を伸ばすのはかなり難しい」という現在の日本ボクシング界だが、「魅力に溢れたボクサーであれば、ボクシングファン以外の注目を浴びる存在となれる」、そんな前例を作っていってほしい思いもある。
と同時に、日本のリングにとどまらない活躍を見せてほしい、いや、それができるボクサーだということを強く感じさせてくれた一戦だった。
(それこそ、数年後、井上尚弥と中谷が対峙するという場面を夢想したりもする)


【ゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太】

いよいよ実現する、ビッグマッチ。
観客数こそ、これまで今回の試合を上回る試合はあったが、動いた金額は日本ボクシング界史上最高と言われる今回の試合(ファイトマネーの総額は21億円超という報道もある)。
ミドル級という人気階級で、しかも、ゴロフキンという超ビッグネームを日本に呼び、かつその選手に対抗し得る日本のボクサーがおり、スポンサーや放映権の要素もクリアする、という数々の条件をクリアして、ようやく成り立ち得る、今回の興行。
しかも、コロナ禍ということで、それこそ試合開始のゴングが鳴らされるまで、実際にその試合が行われるか保証がないというリスクを抱えての、今回の興行。
ボクシングの試合であるわけなので、試合の”勝負”が大事な要素であることは間違いないが、今回の興行に関しては、”実現”できたこと自体が、”勝利”と言えたようにも思う。

さて、今回の試合前、最も不安だったのは、ゴロフキンと村田の実力の実際の”差”もさることながら、村田の「2年4ヶ月」というブランク。
たびたび発せられる村田の発言を聞いていると、試合のない期間、心揺れながらも、モチベーションを保っていたことがうかがえたが、試合勘という部分においては、かなりの不安はあった。
そして迎えた1R。ゴロフキンのジャブの重さに、ちょっとした衝撃を感じた場面はあったものの、これまでの試合と同じく、ガードを固め、ジリッジリッとプレッシャーを掛けていく村田の姿は、これまでの試合と変わりなかった。
続く2R、3R、村田の左ボディフック、さらに右ボディストレートが、ゴロフキンに幾度となく当たる。ゴロフキンの動きが止まったように見える場面もあり、「もしかして…」という結末に思いをめぐらせた日本のファンも多かったのではないか(何発かローブロー気味に見えたパンチもあったが、ゴロフキンのトランクスの位置の高さも、そう見えた要因の一つかもしれない)。
しかし、そのままの展開で村田が押し切る…、とは行かなかった。
4R、5Rと、徐々に、ゴロフキンが多彩かつ重さのあるコンビネーションで攻勢を見せ始め、6Rには、そのコンビネーションで、村田がマウスピースを吐き出す場面もあった。
解説の長谷川穂積が言うように、徐々にゴロフキンの攻撃が「止まらない」場面が目につくようになり、それまで無かった村田の動きが止まるシーンもあった。
ただし、少し、時を戻すが、中盤戦まで村田が互角(5Rまでの採点は、49-46ゴロフキン、48--47ゴロフキン、48-47村田)に戦ったのは、村田のガードを固めたスタイル+打たれ強さがあったからこそと言えるかもしれない。
ボクシングファンは、とかくわかったような解説をしてしまうが、ゴロフキンの圧力と技術に対峙して戦い抜くことのリアルは、実際に戦ったものにしかわからない。
肉体的にもかなり厳しいところまで来ているように見えた8回をなんとか凌いで迎えた9R。捨て身とも言える開始直後の攻撃でカウンターを浴び被弾。そして、2分過ぎ、再びカウンターを浴び、村田がリングに膝をついたところで、試合は終わった。

興行規模的にも、そして相手のキャリア・実力を考えても、”夢”の試合と言えた試合が終わった。
細かい技術的な話については、今後、「解説:村田諒太」に解説してもらうのが一番だろう(その場は、エキサイトマッチになるだろうか)。
試合後、会場のファンが送った拍手、そしてテレビを見ていた視聴者が心の中で送ったであろう拍手が、今回の試合の価値を表していると言えるだろう。


【全体を振り返って】

メイン、セミ、セミセミと、試合内容への評価が厳しいボクシングファンも、十分満足したであろう、今回の興行。
その放送は、地上波ではなく、Amazonプライムというプラットフォームでの放送となった。
「注目の大きい試合は地上波」というこれまでのスタンダードが一つの転回点を迎えた試合(興行)だったとも言えるだろう。

個人的な印象としては、Amazonプライムは、他の動画配信と比べると、料金の安さもあり、加入への心理的・金銭的な障壁は低いと思う。
興行側としても、動画配信サービスだからこそ、資金面での調達ができたという側面があるようなので、色々なサイドの思惑が一致しての今回の形態となったのだろう。
なお、放送の進行は、MCにボクシング好きで知られる上田晋也と竹内由恵アナ(サッカーのイメージが強いが、元・慶大ボクシング部のマネージャーだったとのこと)。そして、ゲストに井上尚弥、そして解説に長谷川穂積と山中慎介という布陣(実況は、フジの森昭一郎アナと木村拓也アナ)。
そこまで過剰な煽りもなく、おおむねストレス無く見られる放送だったと思う(上田の軽い感じのMCは、人によっては気になるところもあるかもしれないが)。

いろいろな意味で、日本ボクシング界にとってエポックメイキングな今回の興行だったが、ボクシングファンとして切に思うのは、今回の盛り上がりを、「一瞬の花火」にしてはいけない、ということ。
もちろん、これだけの規模の興行は、そうそうできるものではない。
Amazonプライムのボクシング中継第二弾として、井上尚弥vsノニト・ドネアⅡが予定されているとのことだが、村田・井上だからこそ打てる大規模興行とも言える。
しかし、これを他の魅力溢れるボクサーでもできるボクシング界にしていくことが、今後の日本ボクシング界の「宿題」ではないか(今後、那須川天心というビッグネームの転向もあるが)。

今回の村田諒太の試合を、「ミドル級でのビッグネームとの対決」という”夢”の実現だけに終わらせてはいけないと思う。
今回の興行を、日本ボクシングの可能性を大きく広げる「契機」とすることが、今回の一戦の価値、そして意義をさらに高めていくのではないか。

by momiageyokohama | 2022-04-10 22:51 | ボクシング | Comments(0)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、21年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


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