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強打対決で証明されたもの -勅使河原弘晶vs大森将平-

8月8日。
2019年の国内戦では、最大の注目カードともいっていい、勅使河原弘晶vs大森将平の、東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチが行われた。

勅使河原 19勝(12KO)2敗2分け、大森 20勝(15KO)2敗。
これから世界の舞台に打って出ようという勅使河原、世界戦でのタパレスとの2度の敗戦から三たび立ち上がろうとする大森。辿ってきた道は違えど、ともに世界を見据える両者。
勅使河原は栗原慶太・帝里木下、大森将平は益田健太郎・向井寛史・山本隆寛と、それぞれ国内の強豪選手を倒して勝ってきているだけに、「本当に強いのはどっちだ」を地で行くマッチメイクに心が躍り、試合決定後、すぐにチケットを買った。

なお当日は、セミで堀川謙一の日本ライトフライ級タイトルマッチが行われる予定だったが、対戦相手が熱中症の疑いで前日計量に来られず失格。さらに、前座の1試合も中止となったため、当初6試合だった予定がわずか4試合の興行となった。

結局、堀川は急遽、世界チャンピオンの拳四朗との2分2ラウンドのスパーを行うことに(スパー後の拳四朗のコメントでは、本当に、急遽決まった話だったらしい)。
世界王者の姿を生で見る貴重な機会にはなったが、スパー後に堀川がリングで言った「試合が決まった時点で、リングに上がるのはボクサーの責任」という言葉は、改めて、全ボクサー、そして全陣営が心に刻むべき言葉だろう。

ということで、なんと4試合目にして最終試合となった、この日のメイン。

まずは、大森が静かに闘志を秘めた様子で入場。
続いて、勅使河原が、ほぼ本人(?)のお面をつけて、派手に入場。

上り調子という意味では勅使河原かと思うも、大森の経験も侮れず、正直どちらが勝つか全く予想がつかないなか、試合開始のゴングが鳴った。

序盤は両者、一定の距離を置きつつも、緊張感が漂う「パンチが当たる距離」の探り合い。サウスポーの大森に対し、オーソドックスの勅使河原という構図だったが、1Rを終えて、一定以上の力を持つ者同士しか出せない空気感を感じた。
その後も探り合いが続いていくが、時折、勅使河原が、一瞬の踏み込みで大森にパンチを当てていく。
実際に、勅使河原を生で見ると、ノーガードとはいえ、相手のパンチがすぐには当たらない距離を保っているため、簡単に被弾するイメージは湧かない。と思っているうちに、「まだ届かないかな」と思う距離から、一瞬のスピードで相手にパンチを当てていく。しかも、インファイトのボクサーによく見られる「頭も一緒に行く」スタイルではなく、頭の位置は相手とある程度の距離を保ったまま、離れたところからパンチが伸びてくるため、意外と防御力も兼ね備えたボクシングスタイルのように感じた。

大森も、勅使河原に簡単に被弾は許さないが、有効な「攻め手」の糸口がつかめないラウンドが続く。
この日は、ボクシング経験のある友だちと一緒に観戦していたのだが、「サウスポー相手の場合、ジャブを突くよりも、意外と『いきなりの右』とかの方が当たりやすい」「ジャブを突いたとき、ガードでもいいので相手の体に当たると、(ボクシングの)リズムがとりやすい」など、テレビの解説でよく聞くこととはいえ、実際にボクシングを体感した人の話だと、よりリアルな言葉として入ってくる寸評がいくつかあった。
確かに、この日の大森は「まずは右ジャブから」という組み立てを試みるものの、勅使河原がパンチの当たる距離におらず、かつ、さまざまな動きをしてくるため、そのジャブが攻撃の糸口にならず、持ち前の強打に持っていく前の段階で止まっていた。
やや、勅使河原ペースかなと思えるなか、4Rを終えての採点は、2~4ポイント差で、三者とも勅使河原。

5Rには、大森が、勅使河原のパンチで右眼の上をカット。
両者の距離が詰まる時間帯も増えてくるが、勅使河原が接近戦でも、やや優勢。大森もパンチを返すが、形勢を逆転するところまでは行かない。
8Rを終えての採点は、4~6ポイント差で、依然、勅使河原がリード。大森としては、倒すしか勝利の道がなくなる。

後がなくなった大森が、9R、10Rと、ようやく攻勢に転じる。この時間帯は、さきのジャブを突くスタイルではなく、最初からいきなり左を当てに行くような場面も多く、戦い方の転換が功を奏したように見えた。カメラ越しにのぞく勅使河原の表情も、心なしか疲れが見える。

しかし、ここでも、勅使河原は危ない距離にずっといることはせず、大森の強打から徐々に逃れていく。途中、笑みを浮かべるシーンもあった。
いつの間にか大森も、また右ジャブから組み立てるようなスタイルに戻ってしまい、再び「攻め手」が途絶えてしまう。
そして11R、勅使河原がラッシュをかける。ここは、大森が、ある意味さすがと思える粘りでダウンを拒んだ。
しかし続く12Rも勅使河原が攻め続ける。大森が最後まで粘り切るかとも思ったが、残り30秒。レフェリーが試合を止めた。

試合後、全身で喜びを表現した勅使河原。
インタビューでは「この日のためにすべてを懸けてきた」と、この試合への思いを吐露した。
「この先のことは何も考えていない」とのコメントもあったが、世界挑戦経験のある強打者を破ったことで、世界王座を狙う資格を一つ手に入れたといってもいいだろう。

少し前までは、国内で世界を狙える強豪がひしめく階級と言えば、スーパーフェザー級だったが、現在は、スーパーバンタム級に世界ランカーがひしめいている。
この日の勅使河原、大森。さらには、和氣慎吾岩佐亮祐小國以載(なお、試合前の立ち振る舞いなどは相変わらずだが、世界ランカーという意味では、亀田和毅もこの階級)。
なお、この日は、前々戦の久我戦、そして前戦の中嶋孝文戦を一緒に会場で見た友だちとも観戦していたのだが、「和氣と勅使河原が戦ったら、どちらが勝つか」という問いには、2人とも「和氣かな」との感想(リング内を自分の庭かのように動き回るフットワークは、テレビで見る以上のものがある。さらに、一瞬のパンチスピードも、世界に通用すると思うのだが)。
その和氣は、この日、(おそらく)真正ジムの山下会長の隣で試合を見ていた。世界戦の実現は、ファンが思う以上に大変なのかもしれないが、スピード・パワーともに充実している今、何とか世界戦を実現させてほしい。

話を勅使河原に戻す。
勅使河原というと、幼少時、義母から虐待を受け、その後、非行を繰り返し少年院へ。そこで見た輪島功一の自伝に心を動かされ、ボクサーを目指したというヒストリーが、ボクシングファンには知られている。
実はこの日、セミに繰り上がったライト級8回戦で、アマ出身3戦目の鈴木雅弘相手に痛烈なボディKO負けを食らってしまったが、ここまで9勝(8KO)3敗1分けと、徐々にランキングを上げている有岡康輔も、幼少期に虐待を受けていた経験があると、試合後に見たTwitterで知った。

アマチュア出身ボクサーが世界王者の多くを占める時代となり、以前に比べ、かなりスポーツ的な要素が濃くなったボクシングだが、「己の存在証明」という要素は、どのボクサーにもあると思う。

この日の勅使河原は、事前に考えていた大森将平対策をやり遂げたという意味でも、また最終12ラウンドにラッシュで決めたという「姿勢」の部分でも、見事に「魅せるボクサー」としての存在証明を果たしたと思う。
「今は多くの人に支えられている」と感謝を口にする勅使河原だが、果たして、現状ではアメリカ・メキシコ勢がひしめくスーパーバンタム級の世界王座を掴むことができるのか。

いずれにしても、今後、日本ボクシング界で最も注目したいボクサーになりつつあることを実感した、この日の試合だった。

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by momiageyokohama | 2019-08-20 00:31 | ボクシング | Comments(0)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、20年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


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