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井上尚弥と井岡一翔に見る「本当の強さ」とは

その衝撃から2ヶ月近くが経とうとしているが、井上尚弥が、自身初となるイギリスのリングで見せたパフォーマンスは、決して低くはない観る側の期待をさらに上回るものだった。

結果的にはトータル4分半を待たずして試合終了のゴングを聞くことになったエマヌエル・ロドリゲスとの一戦。
しかし、無敗の王者同士の戦いということもあり、1Rの3分はこれまでの井上の試合の中でも最もレベルの高い攻防だったのではないか。
見方によっては、ロドリゲスがポイントを取ったとも思えた1R。しかし、そこで相手の力を把握した井上が、その後、わずか1分19秒で試合を決めた。

ふだんボクシングを観ない人にも、はっきりとその強さがわかる試合を、またもやってのけた、井上尚弥。
いまや、パウンド・フォー・パウンド1位も射程圏内にとらえたといってもいいその強さの要素は、ボクシング関連の媒体、さらにはスポーツメディアなどで、さまざまな角度から語られている。
挙げればきりがない、その強さを形作る要素だが、自分が井上尚弥に最も「強さ」を感じる部分。
それは「慢心の無さ」である。

これだけの圧倒的な戦績を残しているにもかかわらず、そのコメントの端々には、「自信」こそ見えるものの、「慢心」は垣間見られない。
今回も、無敗のロドリゲス相手ということもあり、自身を必要以上に強く見せるようなコメントは見られず、どちらかというと、相手への警戒心を伺わせるコメントが目立った。
ここ数試合の圧勝劇で、一時期、自身のボクシングを見失っていたことが、本人、そして陣営からも、試合後に明かされたが、そうした自身の悪い状態を的確に認識できることも、「慢心の無さ」の裏返しではないかと思う。

これだけ圧倒的な試合が続くと、メディアやファンは、さらに上の階級への挑戦を騒ぎ立てるが、本人曰く、無理やり上の階級に上げることは考えていないと明言している。また、ボクシングビートのインタビューでは、(今回のロドリゲス戦のような)高いレベルの試合を続けるとなると、1年2試合が限度と、試合のスケジューリングに関しても、冷静な自己分析をしている。

その全盛期の凄さを知るがゆえに、多くのボクシングファンが「現在は力が落ちている。井上の優勢は動かない」と考えている次戦のドネアに対しても、コメントを見る限り、さまざまなシミュレーションをして、今後、試合に向けて、小さい隙をさらに埋めていく作業をしていくだろう。
「ただでさえ強い者が、慢心する心を持たずに、さらに高みを目指していく」。
それを世界一レベルで見させてもらっている、ボクシングファンは幸せである。


井上尚弥の衝撃から1か月後。2年ぶりに日本のリングに上がった井岡一翔が、自身4階級目となるベルトを手にした。
下の階級からの転級ということもあり、相手のアストン・パリクテとは一目でわかる体格差があるなかでの戦い。
その体格差に比して、序盤は押される展開となったが、ブロッキング技術、そしていい角度で入る左ボディで徐々に試合の流れを引き寄せ、最後はその高いボクシング技術でつかんだKO勝利。
試合後、喜びを爆発させたその姿には、引退発表からアメリカのリングでの復帰、さらには一度の敗戦と、決してまっすぐな道ではない道程を歩んできた、これまでの苦しさが垣間見られた。
前述のように、復帰後の井岡一翔のボクシングで改めて感じたのは、派手ではないものの、勝利に一歩一歩手繰り寄せる、その技術の高さ。特に、無駄な動きを極力なくし、フェイントやブロッキングで相手のパンチを防いでいくという防御力の高さを感じた。

しかし、結果的に新たなベルトを獲得したとはいえ、一時期リングを離れていた時期もあったなか、そこから、また世界の頂を目指すまで気持ちを切らさず走り続けた、その「意気」に、井上尚弥とはまた別の「強さ」を感じた。
サポートをしてくれる力があったとはいえ、一回、試合のリングから離れた気持ちを取り戻すのは、そんなに簡単なことではないように思える。
さらには、復帰前よりも骨太な相手を選んでいる、復帰後の戦い。

思えば、6年前、ローマン・ゴンサレスとの一戦を回避したことで、ボクシングファンの井岡一翔に関する評価は、一気に落ちた。
ふだんボクシングをあまり観ない人たちの目はごまかせても、あからさまに強豪との対戦を回避したその姿勢には、多くのボクシングファンが失望した。
(スーパー王者である)ロマゴンの存在がまるで無いかのような井岡のコメントも、その評価をさらに低くする要因となった。
ただし、このロマゴン回避については、父親である会長、また放送局でもあるTBSの意向による部分が大きかった可能性もあり、果たして、井岡一翔本人が納得していたかはわからない。

復帰後の3戦の対戦相手には、「強豪と逃げずに戦う」という、井岡一翔の明確な意志が見て取れる。
3階級制覇を果たしたものの、アメリカに渡ってみて、「自分が全く知られていなかった」という井岡本人のコメントもある。
自身に対するこれまでとは違う評価を目の当たりにして、そこから獲得した「強さ」は、これまでとはまた別の「強さ」かもしれない。

井岡の現階級であるスーパーフライの現況を見ると、「Superfly」興行の今後の展開こそ期待薄ではあるが、ボクサー自体に目を移せば、エストラーダ、シーサケット、ヤファイ、アンカハス、そして因縁のロマゴンと、魅力的な対戦相手が数多くいる。
本人が、これらのボクサーとの対戦を口にしているように、もはや井岡は「負けをおそれて戦わない」ボクサーではないだろう。
対戦相手の現在の強さ+ネームバリュー的な部分では、井上尚弥を上回るビッグマッチを行う可能性もあるかもしれない。


なお、上記に挙げた二人のボクサーは、日本のボクサーのなかでも突出した実力を持つ二人だが、ボクサーの「強さ」は決して、その戦っているカテゴリーの高さだけで測れるものではないとも思う。
日本王者、さらには日本ランカー、それぞれのカテゴリーで、そのボクシングに透けて見える「生きざま」から、それぞれの「強さ」を感じることもある。

「逃げも隠れもできない場所」。

だからこそ、そこで垣間見られる、それぞれのボクサーの、人としての「強さ」。
それが、単なる勝ち負けだけで切り取ることができない、ボクシングの「魅力」でもあると思う。
Commented by 金星宏幸(きんせいひろゆき)より at 2019-07-08 22:38 x
今まではテレビ業界が騙ませて来ましたが今はネットが発達して海外情報は幾らでも入りますしマイキ•ガルシア選手やパッキャオ選手等は体重を増量して不利な状況から勝ち上がって行きました。他のスポーツ選手も今は海外で勝負して勝って行ってますからね。野球、サッカー、テニス、ゴルフ、等は世界で活躍する日本人が増えました。後格闘技は日本人では海外で勝つのは難しいですね。筋トレや筋肉質な体にして勝たなければならないからだ。アメリカでは映画、音楽、スポーツ等は日本以上に稼げますが俳優や音楽では殆どが通用してません。だから向こに行かないのです。日本では世界に通用する物はアニメやゲームしかありません。だから日本のアニメは世界中で人気があるのです。武道家、格闘家は強くなる為に体重を筋肉で増量します。相撲選手、プロレスラーがその類です。それは強くなる為に当たり前の事だからです。減量、減量と日本人ボクサーは強くなる為に増量はしないと言う事か???今の人々はネットがあるから騙せませんよ。だから人気も下がっているし稼げなくなってきているのです。本気や真剣に信念を持って取り組まないと人気も落ちて来ますよ。アメリカではボクサーや格闘家も稼げますからね。ufcと言う格闘技団体もありますからね。
Commented by momiageyokohama at 2019-07-12 12:36
>金星宏幸さん
仰るように、海外の情報がリアルタイムで入ってくるなか、「世界レベルで見た時の、その選手の本当の強さ」がわかる時代になってきていますね。
適正階級に対する考え方も、トレーニングへの考えの捉え方と相まって、時代とともに変えていく必要があるかもしれませんね
by momiageyokohama | 2019-07-06 01:55 | ボクシング | Comments(2)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、20年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


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