「俺たちはこういう試合が見たいんだ。」- 久我勇作 vs 和氣慎吾 -
2018年 08月 03日
そんな一戦が7月27日、後楽園ホールで行われた。
日本スーパーバンタム級タイトルマッチ。
久我勇作 vs 和氣慎吾。
かたや、再戦となった日本タイトル戦で、速攻の王座獲得。さきの防衛戦では1RKOと、今、日本で最も期待される若手ボクサーといってもいい久我(16勝(11KO)2敗1分け)。
一方、念願の世界タイトルでは顔面をボコボコにされてのTKO負けとなったものの、それまでは、東洋太平洋タイトルの獲得から5度の防衛まで、すべてKO勝利。
世界戦の敗戦後、再起した後は4連勝と、再び上を狙う“リーゼントボクサー”和氣(24勝(16KO)5敗2分け)。
タイトルマッチということ以上に、「どっちが強いんだ?」という、ボクシングというスポーツの一番の魅力を満たす試合を実現させた2人が、ついに拳を交えた。
前売券はすべて売り切れで、当日券は無しという状況。
アンダーカードに魅力的な試合が多かったこともあり(ただし、無敗同士の対戦となった冨田大樹vs石澤開の試合は、石澤の練習中の負傷にて中止)、平日にもかかわらず、観客の出足も早かった。
杉田ダイスケvs芹江匡普という文字通り新鋭対ベテラン対決(試合後には芹江の引退セレモニー)、そして粉川拓也vs阪下優友の激戦と試合が進み、ついにメインへ。
最初に登場したのは、この試合では挑戦者となる、和氣。
数多ののぼりのなか、黒いガウンに身を包み、リングに歩を進めていく。リングに上がったその顔には、キャリアから来る余裕か、それともやることはやってきたという思いからか、笑みが浮かんでいた。
続いて、久我。こちらの応援も負けていない。引き締まった表情からは、最近の好成績から来る自信がうかがえた。
富樫リングアナの選手紹介でも、両者気合いの入った表情。ただ、観客の声援にこたえるその様は、「スターボクサー」とでもいうべき佇まいの和氣が一歩リードという印象だった。
そして、いよいよゴング。
1R、久我がガードを高めにセットしながら、和氣にプレッシャーをかけていく。それを和氣が、基本、反時計回りにサークリングしながら迎え撃つ展開。久我の突進力も感じるが、和氣のスピードも目に付く。あっという間に3分が終わった。
3R、久我は再び前進し、和氣にプレッシャーをかけていく。構図的には和氣がそれを迎え撃つ形のようにも見えるが、和氣から先に手を出す場面もあり。パンチが出てないように見える瞬間も、お互いちょっとした動きでのフェイントをかけており、予断を許さない試合展開。
バッティングにより、思わぬペースダウンを強いられた和氣だが、6Rも、フットワークとジャブも含めた多彩なパンチで、久我に試合の主導権を渡さない。
一方、ポイント的にかなり追い上げざるを得ない状況となった久我も、7R後半には、なんとか和氣を追い詰めようと攻勢をかける。
試合直後は、「勝利の喜びを爆発させる」というよりも、すべてを出し尽くしたかのような表情だった和氣。その後、コーナーに上って雄叫びを挙げた姿は、リスクある戦いに挑み、そして自身の力で勝利を勝ち取った者だけが持つ“輝き”を放っていた。
そんな激戦を制した勝者のインタビューの第一声は、大きな災害に見舞われた出身地・岡山への思いだった。
そして、「これだけの観客を集めることは自分一人ではできなかった」という、この試合を受けてくれた久我への感謝の気持ちだった。
試合前、自身のブログで、世界戦での敗戦後に自分を受け入れてくれた現在のジムに、「なんとか日本タイトルを」という思いも書いていた和氣。
いずれにせよ、試合前の期待感、そして観客の盛り上がりなど、近年の日本タイトルでは内藤律樹vs尾川堅一Ⅰに匹敵、あるいはそれを凌いだかもしれない、今回の一戦。
世界ランカー同士の戦いということで、当然、両者の「世界との距離」という観点でも見るべき試合かもしれないが、その部分だけでこの試合を論評するのは勿体ない。
それほど、色々な気づきとエネルギーを与えてくれた試合だった。
さらに、「ファンは、『どっちが強いんだ?』という試合に飢えている」。
試合も「満足」の一言。
現地観戦し甲斐のある一戦でした。