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「俺たちはこういう試合が見たいんだ。」- 久我勇作 vs 和氣慎吾 -

試合が決定してから2ヶ月間、とにかくこの試合を楽しみに待っていた。
そんな一戦が7月27日、後楽園ホールで行われた。

日本スーパーバンタム級タイトルマッチ。
久我勇作 vs 和氣慎吾

かたや、再戦となった日本タイトル戦で、速攻の王座獲得。さきの防衛戦では1RKOと、今、日本で最も期待される若手ボクサーといってもいい久我(16勝(11KO)2敗1分け)。
一方、念願の世界タイトルでは顔面をボコボコにされてのTKO負けとなったものの、それまでは、東洋太平洋タイトルの獲得から5度の防衛まで、すべてKO勝利。
世界戦の敗戦後、再起した後は4連勝と、再び上を狙う“リーゼントボクサー”和氣(24勝(16KO)5敗2分け)。

タイトルマッチということ以上に、「どっちが強いんだ?」という、ボクシングというスポーツの一番の魅力を満たす試合を実現させた2人が、ついに拳を交えた。


前売券はすべて売り切れで、当日券は無しという状況。
アンダーカードに魅力的な試合が多かったこともあり(ただし、無敗同士の対戦となった冨田大樹vs石澤開の試合は、石澤の練習中の負傷にて中止)、平日にもかかわらず、観客の出足も早かった。
杉田ダイスケvs芹江匡普という文字通り新鋭対ベテラン対決(試合後には芹江の引退セレモニー)、そして粉川拓也vs阪下優友の激戦と試合が進み、ついにメインへ。


最初に登場したのは、この試合では挑戦者となる、和氣。
数多ののぼりのなか、黒いガウンに身を包み、リングに歩を進めていく。リングに上がったその顔には、キャリアから来る余裕か、それともやることはやってきたという思いからか、笑みが浮かんでいた。
続いて、久我。こちらの応援も負けていない。引き締まった表情からは、最近の好成績から来る自信がうかがえた。

富樫リングアナの選手紹介でも、両者気合いの入った表情。ただ、観客の声援にこたえるその様は、「スターボクサー」とでもいうべき佇まいの和氣が一歩リードという印象だった。

そして、いよいよゴング。

1R、久我がガードを高めにセットしながら、和氣にプレッシャーをかけていく。それを和氣が、基本、反時計回りにサークリングしながら迎え撃つ展開。久我の突進力も感じるが、和氣のスピードも目に付く。あっという間に3分が終わった。

2Rも同じような展開が続く。
“期待に違わぬ好試合だな”と思っていたその時、和氣の左が久我の顔面をとらえた。久我、ダウン! ホールは一気にヒートアップ。肉体的なダメージはさほど感じられなかったものの、精神的ダメージはかなり与えたのではないかという和氣の一撃。

3R、久我は再び前進し、和氣にプレッシャーをかけていく。構図的には和氣がそれを迎え撃つ形のようにも見えるが、和氣から先に手を出す場面もあり。パンチが出てないように見える瞬間も、お互いちょっとした動きでのフェイントをかけており、予断を許さない試合展開。

迎えた4R、再び和氣の左が久我を捕らえる。今度は、精神的ダメージだけでなく肉体的ダメージも与えるパンチ。和氣が畳みかけ、久我KO負けも…という様相に。試合前のファンの予想では、久我の序盤KOという可能性は考えられても、ここまで和氣が試合を優位に進めるという見方は少なかった。
後楽園ホールに歓声と悲鳴が飛び交うが、ここは、久我がなんとか凌いだ。

2Rのダウン、そして4Rの攻勢と、完全に和氣が試合のペースを掌握したかに思えたが、5Rにアクシデントが起こる。
バッティングで和氣が眉間をカット。和氣の様子を見ると、カットだけでなく、バッティング自体によるダメージがかなりあったように感じたが、ほとんど休憩をとることなく試合が再開される。
ラウンド終盤は明らかに和氣のペースが落ち、一方で、望外の休憩時間となった久我は多少体力の回復をはかれたのか再び攻勢を見せる。
しかし、5Rまでの公開採点では、和氣の3~4ポイントリード。久我は、さらに前に行かざるを得ない展開に。

バッティングにより、思わぬペースダウンを強いられた和氣だが、6Rも、フットワークとジャブも含めた多彩なパンチで、久我に試合の主導権を渡さない。
一方、ポイント的にかなり追い上げざるを得ない状況となった久我も、7R後半には、なんとか和氣を追い詰めようと攻勢をかける。
8Rも和氣のペース。
9R。前半、久我が顔を腫らしながらも攻勢をかけるが、終盤、またも和氣がパンチをまとめて久我が窮地に陥る。

6R以降は、何度か和氣の傷のチェックが入る場面もあった。
血を滴らせながらそれでも、自身のリズムを必死にとり続ける和氣。そして左眼周辺が相当腫れた状態ながら、それでも前進を続ける久我。

そんな死闘は、10R、和氣が久我にパンチを再び畳みかけたところで、久我陣営からタオルが投げ入れられた。
実際会場で見ていて、タオルが入った瞬間は、まるで漫画の1シーンのようでもあった。


試合直後は、「勝利の喜びを爆発させる」というよりも、すべてを出し尽くしたかのような表情だった和氣。その後、コーナーに上って雄叫びを挙げた姿は、リスクある戦いに挑み、そして自身の力で勝利を勝ち取った者だけが持つ“輝き”を放っていた。

そんな激戦を制した勝者のインタビューの第一声は、大きな災害に見舞われた出身地・岡山への思いだった。
そして、「これだけの観客を集めることは自分一人ではできなかった」という、この試合を受けてくれた久我への感謝の気持ちだった。
試合前、自身のブログで、世界戦での敗戦後に自分を受け入れてくれた現在のジムに、「なんとか日本タイトルを」という思いも書いていた和氣。
もちろん、「この試合に勝って、再び世界挑戦を」という思いが、今回の試合の動力になっていたのは間違いないし、実際、インタビューでも世界へのアピールをしていたが、それ以外にも、いろいろな思いが詰まっての勝利だったのだろう。
どちらかといえば不利だと思われた予想を覆しての完勝は、ボクシングファンにその存在を再び強烈に印象付けた。と同時に、「敗戦は必ずしも終わりを意味するものではなく、リスタートのチャンスでもある」ということを教えてくれた。

一方の久我。最後まで、諦めない姿勢は見せたが、結果的に和氣のフットワークと多彩なパンチに対応できなかった。解説を務めたジムの先輩・内山高志は試合後、「踏み込みのスピードが足りなかった」と、厳しい指摘をしていた。
試合後には、「和氣さんに世界を獲ってもらい、僕が挑戦したい」とコメントしたとのこと。その意気や良しとは思うが、それを実現するにはクリアすべき課題が数多くある。
果たして、今回の痛みを、自身の血とし、肉とすることができるか。


いずれにせよ、試合前の期待感、そして観客の盛り上がりなど、近年の日本タイトルでは内藤律樹vs尾川堅一Ⅰに匹敵、あるいはそれを凌いだかもしれない、今回の一戦。

世界ランカー同士の戦いということで、当然、両者の「世界との距離」という観点でも見るべき試合かもしれないが、その部分だけでこの試合を論評するのは勿体ない。
それほど、色々な気づきとエネルギーを与えてくれた試合だった。

さらに、「ファンは、『どっちが強いんだ?』という試合に飢えている」。
改めてその思いを強くした試合でもあった。

それは、今、ボクシング関係者に一番真剣に考えてほしいことでもある。

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Commented by アーリークロス at 2018-08-06 15:50 x
写真、いいですね!
試合も「満足」の一言。
現地観戦し甲斐のある一戦でした。
Commented by momiageyokohama at 2018-08-08 00:01
試合前の盛り上がりも含めて、現地で見てよかったと心から思える試合でしたね。写真も、おかげさまでいい場面が撮れました。
by momiageyokohama | 2018-08-03 01:34 | ボクシング | Comments(2)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、20年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


by もみあげ魔神
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