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山中慎介 vs ルイス・ネリ その試合の意味

先日行われたWBC世界バンタム級(53.52kg以下)タイトルマッチ、山中慎介 vs ルイス・ネリ。

試合前日の計量では、ネリが2.3キロのオーバー(その後の再計量でも1.3キロオーバー)で王座剥奪。ネリの体重を聞いて、この試合に賭けてきた山中が「ふざけるな」と声を荒げる場面もあった。控室に戻る際は、悔し涙を浮かべていた山中。

そして翌日、挙行された試合の結末は、ネリの2R KO勝利。
ルール破りを平然と行った者に、2ラウンドの間に5度倒されるという光景は、12度の防衛を数え、見ているファンに「これぞボクシング」というKOを何度となく見せてくれた素晴らしいチャンピオンの最後の試合としては、あまりに辛い光景だった。

試合後(というより、体重超過があってから)、ルール破りをしたネリに対し、日本のマスコミ、そしてボクシングファンから、強烈な批判の声が上がった。
試合を終えたネリのコメントを見る限り、確信犯的な体重超過だったとも思われるなか、WBCは、ネリへの無期限資格停止の処分を科すとの声明を発表した。
ただし、この無期限がいつまでを指すかはわからない。何より、他の主要3団体(WBA・IBF・WBO)のタイトル戦への参加は制限されてはいないというのが、現実である。

山中vsネリ戦の後、「今回の試合、体重超過が決定となった時点で試合を中止すべきだった」という意見も多く見られた。
もちろん、それも一つの選択だったと思う。
ただし、チケットがすべて販売され、テレビ放映も決定し、試合の開催に多くの人が携わった中、「中止」という判断が下される可能性は、かなり小さかったであろう。
なお、ネリには翌日(試合当日)の昼12時に再計量し、58.0キロを上回らないという制限が課せられたが、これが守られない場合でも試合は行われるとのことだったそうである(実際は、57.5kgで下回った。ただし、計量は非公開)。
そして、山中本人の心中。もし、これだけ求めてきた試合が中止になった場合、その怒りは果たしてどこに持っていけばよかったか。相手の暴挙とはいえ、人生を賭けてきた試合が行われないまま、ボクシング人生を終えるのはあまりにも酷だとも思った。

ただ、実際に行われた試合は、本当に残酷な結果となった。大袈裟でなく、山中が「死ななくてよかった」と思った。ただ、表面上はダメージはなくとも、幾度となく倒れた試合内容、そして試合後のインタビューでの白目のなかに見えた血などを見ると、「この試合での後遺症がなければいいが…」との思いもよぎった。

試合後、リングに上がった山中への「称賛」の声は多かった。
そう思う気持ちもわかる。
だが、今回の試合を、そうした「美談」の位置付けにするのは、本質的には間違いである。

ルール破りが平然と行われる状況。そして「破った者が得をし、破られた者が圧倒的なハンデを負わされる」という、この構図を、いかにして変えるか。
ここを真剣に考え、実際に行動に移していかないと、ボクシングというスポーツそのものが壊れていく。そう強く感じた。

ただし、その壁は低いものではない。
日本の場合、体重超過への視線が厳しいということもあり、契約の際、「体重超過をした場合のペナルティを厳罰化する」という手段もあるだろうが、そうなると、日本での試合(あるいは日本人選手がらみの試合)を敬遠するボクサーが増えるという可能性もあるだろう。
何より、世界的に見れば、世界戦での体重超過は、ほぼ“日常化している”といっていい状況。しかも、マイキー・ガルシアといった実力のあるボクサーですら、そうしたことを行うというのが、世界のボクシングの「現実」である。
例えば、実現が噂されるロマチェンコvsリナレス、さらには試合が決定したゴロフキンvsアルバレスⅡなどで、もし”体重超過“といった事態が起きた場合、果たして、統括団体は、「試合中止」という決断をできるのか。
より身近な例で言えば、海外の実力者との対戦を熱望している井上尚弥が、もしマクドネル、そしてゾラニ・テテとの対戦が決定したにもかかわらず、前日に今回の山中vsネリのような事態が起きた場合、大橋会長と井上は、試合中止という決断を下せるのか。

とどのつまり、厳罰化は一つの方法であるにせよ、選手のルール破りによる試合中止の責任が、完全に、そのルール破りをした選手(陣営)に向かうものでないと意味がないと言える。
しかも、それは、4団体すべてで適応されなければ意味がない。
その妙案は、なかなかすぐには出てこないが「4団体共通のブラックリスト作成」などは、一つの策と言えるかもしれない。
その他、ドーピングに関する規定・検査の曖昧さなど、ボクシングには、クリーンにしていかなければいけない課題が数多くある。

今回、ネリの体重超過のニュースを見ていて、日頃あまりボクシングを見ない家族が「なんで超過したのに、試合やるの?」という、あまりにも真っ当な疑問を口にした。
ボクシングファンとして、あれこれと理由付けをして説明したのだが、自分で言っていて、うまく説明できないもどかしさを感じた。

正直、ボクシングファンの方も、どこか感覚が麻痺しているところもあるのかもしれない。
「ボクシング界の常識」が、一般の視点からすると「非常識」だったりすることも多いかもしれない(団体の多さ等など……)。
個人的には、一般の視点からすると「非常識」な部分が多ければ多いほど、そのスポーツは、一般の支持を得られにくくなると思っている。

ボクシングが、果たして本当に「素晴らしいスポーツだ」と胸を張って言えるのか。
今回の試合は、試合前のこともひっくるめて、(それこそ、遡ってドーピングの問題も含めて)その問いが投げかけられた試合ではなかったか。

「ボクシングは、素晴らしいスポーツだ」
そう胸を張って言えるには、まだまだボクシング界には、改善していかなければいけないことが山積している。


by momiageyokohama | 2018-03-04 00:51 | ボクシング | Comments(0)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、20年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


by もみあげ魔神
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