野球をさまざまな角度から考える3冊
2017年 11月 17日
アジアプロ野球チャンピオンシップ、そしてストーブリーグはあるものの、ここからしばらく野球ファンにとっては寂しさを感じる季節。
ということで、今回は、プロ野球を含めて「野球」というものについて、いろいろと考えさせられる3冊を紹介。
1.
『勝ち過ぎた監督
-駒大苫小牧 幻の三連覇-』(中村計)
2004年、北海道勢として初めて甲子園優勝。さらには2005年も制覇し、夏の甲子園連覇という快挙を果たした、香田誉士史・駒大苫小牧硬式野球部元監督にスポットを当てた本。ここ数年で読んだ野球本のなかで一番面白かったといってもいい一冊。
内容は、これまでは初戦突破すら難しかった北海道のチームを、気候的なハンデがありながら甲子園連覇にまで導いた監督と選手たちの、汗と感動のストーリー……ではない。一言で言えば、「甲子園をめざす高校野球チームの“リアル”」。
何より圧倒されるのは、ときに“狂気”ともとれる練習に象徴される「香田誉士史」という人物の、プラスマイナスひっくるめて尋常でないエネルギー量である。その膨大なエネルギーを「伝えたい」という思いは、本書を書くなかでの著者の“動力”でもあったのだろう。
一方、本書のもう一つの肝は、甲子園の「熱狂」が生み出す“ひずみ”である。
04年・05年と、夏の甲子園連覇の快挙を果たした駒大苫小牧だったが、部員の喫煙・飲酒が発覚し、翌06年の選抜出場を辞退。そのときの顛末、その後の香田の監督辞任と復帰、そして田中将大と斎藤佑樹の投げ合いとなる夏の決勝、そして香田が駒大苫小牧を去るまでの状況が本書では生々しく書かれている。
この間起きたことについて、何(誰)が正しくて、何(誰)が悪いのかというのは、人によって意見は異なるだろう。ただ、本書を読んで思ったのは、今の甲子園システムは、監督・選手はじめ高校野球に関係する人たちが、本来犠牲にしなくてもいいものまで犠牲にせざるを得ない状況を生んでいるのではないか、ということである。
いずれにせよ、時間をおいてもう一度読み返してみようかと思うほど、濃密な内容。400ページを超える内容をあっという間に読ませ、かつ、読むものの心に一石を投じる著者の筆力、そして書籍企画を実現させた編集者に、敬意を表したい。
2.
『プロ野球「第二の人生」
-輝きは一瞬、栄光の時間は瞬く間に過ぎ去っていった』(赤坂英一)
2000年代前半、巨人でプロ野球人生を過ごした4人の選手たち、入来祐作・小野剛・福井敬治・前田幸長の「プロ野球選手」としての日々、そして「その後」を描いた一冊。
「自らの実力」を否応なくつきつけられる世界。そして「自分の力だけで道を切り開けるわけではない」という現実。それらと、いったいどう向き合っていったのか?『キャッチャーという人生』『プロ野球 コンバート論』『プロ野球 二軍監督』『最後のクジラ』など、プロ野球ノンフィクションの良書を多数執筆しているスポーツライターの赤坂英一氏が、ニュースやスポーツ紙の報道だけでは見えないプロ野球選手の実像を描いていく。
本書では、さまざまなエピソードが紹介されているが、そのなかでも印象的だったのが、巨人を2年で戦力外となった小野剛。巨人退団後、様々な経緯を経て西武に入団した小野。入団後、二軍で好投を続けるも、その一方で、右肘が日に日に痛くなる。そんななか、一軍初招集の通知が来る。痛みがあることをコーチにもトレーナーにも隠し、様々な痛み止めを処方して、登板を重ねる小野……。
奇しくも、昨日、プロ野球のトライアウトが行われた。多くの選手は、このトライアウトをもって、プロのユニフォームを脱ぐことになる。それは、プロでの数年間のキャリアの終わりというより、プロ野球選手を目指して子どもの頃から野球に捧げてきた十数年から二十年以上にもわたる生活の一つの終わりでもある。
その一方で、一人の人間としての「人生」はこの先もまだまだ続いていく。「プロ野球選手」として戦力外という事実を突きつけられる一方、「生きる」「生活する」ということと否が応でも向き合わなければいけない。
生きる世界は違えど、読者のなかには、転職などで「“社会”のなかにおける自分」というものと対峙せざるを得ない経験を持つ人もいるだろう(自分もその一人であるが)。
“自分の能力”と“自分が置かれている現実”と、そして少しばかりの“プライド”と。プロ野球には、人の人生が詰まっていることを感じる一冊でもある。
3.
『中南米野球はなぜ強いのか
-ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本』(中島大輔)
前述の2冊とは少し趣が異なる一冊。もともと書評サイト「HONZ」で紹介されているのを見て、興味を惹かれた。
内容は、サブタイトルにあるとおり、中南米各国を渡り歩き野球関係者の話を聞きつつ、そこに、中南米でのスカウト・選手経験がある日本人の証言も交えながら、中南米野球の「歴史」、そして「現在」を紐解いていく。
この本については、目次を見ていくと、内容の概要、そして本書がスポットを当てた部分が掴めるだろう。
(プロローグ アレックス・ラミレスの証言)
序 章 中南米ルートを拓いた森繁和
第1章 ドミニカ共和国、最強の秘密
第2章 キュラソーを押し上げる知性
第3章 キューバの栄光・亡命・希望
第4章 ベネズエラ 国家危機と野球
終 章 ウインターリーグと渡辺俊介
なお、キュラソーは、カリブ海に属するオランダ領で、アンドリュー・ジョーンズやバレンティンの出身地である。
ひとくちに「中南米」といっても、国(領土)によって辿ってきた歴史、また気質は異なり、それは当然野球にも反映されている。ただ、本書を読んでいくと、一部の地域をのぞき、「貧困」というものが大きなファクターであることがわかる。加えて、MLBへの「距離感」というものも、日本とはまた異なるだろう。
本書では、関係者への様々な取材により、なかなか我々が触れることのない中南米各国の野球事情が明らかにされていく。加えて、所々に、それぞれの国の日常の風景というものも出てくる。
タイトルの「中南米野球はなぜ強いのか」の答えについては、各章、またエピローグにおいて、著者がその理由を書いてはいるが、分析的視点というより、中南米野球のリアルに触れて感じたものを転化させたという書き方である。
その意味では若干の物足りなさは感じたが、日本に在籍していた選手(ブランコ、グリエルetc)を含め、各国の野球関係者へのインタビューはかなり貴重。
プロレベルでの国際試合が以前よりも増えているなか、日本が他国の野球から参照すべき要素(技術・育成システムetc)は、まだまだある。そのことを改めて感じさせてくれる本でもある。



























