人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「プロ野球ニュース」が残した功績、そして課題

今年の3月、ちょうどWBCが盛り上がりを見せている頃、70年代後半から80・90年代のプロ野球番組の金字塔とも言える「プロ野球ニュース」(地上波放送:1976年4月~2001年3月)の歴史とその裏側を描いた『オレたちのプロ野球ニュース-野球報道に革命を起こした者たち』(長谷川晶一 著)が発売された。

季刊の野球雑誌「野球を読む」で、コアな野球ファンのニーズにも十分耐えうる記事を多数執筆し、野球関連の単行本も多い長谷川晶一氏による著作。しかも、自分が子ども時代に多大な影響を受けた「プロ野球ニュース」についての本、ということで、発売後すぐに購入した。
書かれていた内容は、懐かしのアナウンサー・キャスターへの取材も含め、どれも興味深いものであり、あっという間に読み終えた。
ただ、読んだ後、それをどうまとめていいか、なかなか考えがまとまらず、レビューを書くのが今になってしまった。

まず、80年代からプロ野球を見始めた自分の原体験のなかで、「プロ野球ニュース」という存在は非常に大きなものだった。
それは、多分に自分が大洋ファンだったという部分が大きいだろう。80年代は、プロ野球における巨人の割合が半分以上、いや8割以上はあったといってもいい時代。
普通のスポーツニュースでは、ごくごくわずかな時間でしか触れてもらえないマイナー球団(しかも弱い)のファンからすると、「12球団すべてを均等に扱う」この番組は、本当に貴重な情報源だった。また、巨人戦も無く、中継でもなかなか見ることが少ないパ・リーグの選手たちの実映像を多くの野球ファンに届けたという意味でも、極めて、プロ野球界への功績の大きい番組だったと思う。
本書の巻末で、長谷川氏が「佐々木信也氏を、野球殿堂に」と述べているが、もしも野球殿堂に人物表彰に限らない部門があるならば、間違いなく、野球殿堂入りすべき番組だろう。

自分が番組を見始めたのは80年代に入ってからだが、巨人対阪神と同じだけの時間、阪急対南海などのカードに時間を割き、かつ全6試合、アナウンサー・解説者つきという放送は、かなりの衝撃があり、そして「やろうという思いがあれば、どんな番組でもできるんだ」といった感想を持った。
見始めた当時、印象的だったのは、豊田泰光、西本幸雄、別所毅彦、米田哲也、山本一義など、見ただけで重みを感じる解説者の面々(特に、別所氏の印象は強烈だった)。そして、関西・名古屋・広島など、自分が住んでいる関東以外の各アナウンサーの、それぞれ個性を持った実況ぶりだった。
現在の「CS プロ野球ニュース」は、解説がつくのが6試合中2試合のみ(しかも、多くは、現地取材ではなく、スタジオ観戦に基づく解説)だが、当時は全試合がアナウンサー・解説つき。ということで、アナウンサー・解説のコンビネーションも、試合を面白く見せられるかどうかの肝であり、現場で実際に見てきてからの実況・解説ということで臨場感もあった。

なお、『オレたちのプロ野球ニュース』では、「プロ野球ニュース」に関わった多くの人の声が載っている。
ざっと挙げると、佐々木信也、野崎昌一、中井美穂、福井謙二、須田珠里、平松政次、大矢明彦、松倉悦郎、吉村功、神田康秋、梅田淳……。
リアルタイムで見ていた人は、当時の映像が浮かんでくるかもしれない。

とにかく、繰り返しになるが、全6試合をアナウンサー・解説つき、しかも全部で1時間近くの番組を毎日放送し続けるというのは、よほどのパワー、そして人材が無いとできないと思う。
『オレたちの…』には、名前こそ知られていないが、それを実現し、またスタッフとして支えた人々の声も数多く収録されている。

なお、この本は、プロ野球ニュースの歴史を紐解いた一冊といってもいいが、野球番組としての『プロ野球ニュース』を描く一方で、下記のような部分にもスポットを当てたところが特徴的と言えよう。

 1. プロ野球がオフの時期の企画づくり
 2. 佐々木信也氏からのキャスター交代

1については、「プロ野球ニュース」の”野球番組としての矜持”といってもいいかもしれないが、ここでも、日頃は露出の少ない「巨人以外の」選手たちが、色々な顔を見せる姿は新鮮だった。
2については、「プロ野球ニュース」にとってエポックメイキングなことだったとはいえ、その真相を探っていく作業は、ある種の勇気がいる作業だったように思う。そのことに踏み込んだという意味での本書の価値は高いのではないか。
このことについては、地上波撤退のことも含め、本を読んで、「どんなに歴史のある番組でも、『テレビ局という大きな組織のなかで、その番組がどうとらえられているか』というところからは逃げられないんだな」という感想をもった。
なお、佐々木信也氏時代の12年間は「プロ野球はすべての試合が公平に見られるべきだ」という見方を提示したという意味で、女性キャスターの登用・オフ企画のバラエティ化がはかられたその後の13年間は「これまで野球にあまり興味がなかった人にも野球を見るきっかけを作った」という意味で、それぞれに残したものがあると思う。

一方で、どんな番組も100%ということはない。
他局に比べて圧倒的なボリュームで野球を扱った「プロ野球ニュース」も、伝えきれなかった、あるいは欠けていた要素もある。
その一つは「『上から目線』からの脱却」。解説というのは、ある意味、結果論でものを言えるものでもあるが、それが現場の選手でも納得し得るものでなければ、本当の「解説」ではないと思う。
数多くの解説者が出演した「プロ野球ニュース」だったが、非常に参考になる野球の見方を提示してくれる解説者もいれば、結果論に終始するような解説もあった。それでも、90年代前半頃までは、現役時代のネームバリューが解説の説得力の後押しをしていた部分もあっただろう。ただ、時代は変わっていく。
ちょうど、地上波「プロ野球ニュース」が終了するのと前後して、テレビ朝日が「GET SPORTS」という、雑誌の「Number」に近いスタンスの番組をスタートさせたが、そこで主に野球のナビゲーターとなっていたのが栗山英樹氏だった。
現役時代の数字は傑出したものではなかった栗山氏だが、だからこそか、その選手目線に立った解説は新鮮に思えた。
その後、栗山氏の後を継いだ工藤公康氏も、現役時代の実績ではなく、「理論」をもとにした解説で、その発言に説得力を持たせた。
一方、そうした解説者を、「プロ野球ニュース」は、何人育てることができたか。
「プロ野球ニュース」という非常に充実した野球番組であったにもかかわらず、解説者同士が、その鑑識眼や、野球の魅力のプレゼン力でしのぎを削るという部分が、あまり見られなかったのは、もしかすると、「プロ野球ニュース」を続けられなかった遠因かもしれない。

また、非常に素晴らしい本ではあるが、『オレたちのプロ野球ニュース』についても、1点。
盛り込む要素が多すぎて、著者的にも、編集者的にも本として完成させるのは非常に大変だったと思うが、具体的な放送内容の描写や、そこに至る打ち合わせでのやりとりなどを、もう少し多く盛り込んでもらえると、より満足できる内容だった。

現在、CSで放送されている「プロ野球ニュース」は、早いもので17年目を迎える。
地上波放送が終わっても野球を存分に見られる番組があることに感謝をしつつも、今後のプロ野球を考えたときに、定期的な地上波での野球番組の存在は不可欠だとも思っている(昨年末も、そうしたことを書いたが)。

「2018年、地上波で、新たな野球番組がスタート」
そんなニュースが飛び込んでくることを期待したいところだが。


by momiageyokohama | 2017-05-02 02:34 | 野球(全般) | Comments(0)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、20年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


by もみあげ魔神
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31