村田諒太、井上尚弥 注目の2試合を見終えて湧き上がった「期待」と「混乱」の感情
2013年 08月 31日
ロンドン五輪ミドル級金メダリスト、村田諒太のプロデビュー戦と、“怪物”と評される井上尚弥のプロ4戦目での日本タイトル挑戦。
試合は、フジテレビがゴールデンタイムで中継。
決してボクシング人気が一般的に高いとはいえないなかでの、前回に続く連続ゴールデンタイム中継には、局の意気込みを感じるところ。
今回も、前回に引き続いて、MCはボクシングファンの千原ジュニア。司会進行には、三宅アナと加藤アナというエース的存在を立てる。
番組全体の解説は西岡利晃が担い、その左側には、もはや日本ボクシング界の“ご意見番”ともなりつつある香川照之(画面右側だけ見ると、エキサイトマッチかと見まがう光景)。
さらに、井上vs田口戦は、両選手の所属ジムの先輩でもある、内山高志・八重樫東という、現役世界王者2人がゲスト解説に。また、村田諒太の試合の解説には、これまた現役世界王者の山中慎介(村田の高校の先輩でもある)がゲスト解説と、ほぼ日本ボクシング界オールスターではないかといってもいいほどの布陣。
試合はまず、井上尚弥と王者・田口良一との、日本ライトフライ級(48.97級)タイトルマッチから放送された。
序盤は両者、鋭いパンチを繰り出し、試合前の予想よりも互角に近い展開だったが、徐々に井上のパンチが田口の顔面、ボディにヒットし、試合を優勢に進めていく。
パンチのバリエーションの豊富さ、パンチをよける勘の良さで上回る井上が、田口を押し切るかとも思えたが、田口も、打たれても前進をやめず、結構危険なパンチを繰り出していく。
途中、解説の川島郭志が指摘していたように、井上がスウェーでよけきれずに、田口のパンチをもらうシーンもあった。3分間フルで攻防が続く濃いラウンドが、最後まで続き、勝負は判定に。
勝者としてコールされたのは井上。3~6ポイント差での判定勝利という結果は、井上陣営にとって満足の行くものではなかったかもしれないが、井上の出来不出来というより、田口が、本当の意味での世界ランカーであったがゆえに、この結果になったと見るべきだろう。まずは、井上の将来云々を語る前に、ボクシングの面白さを十分見せてくれた試合だった。
その井上。4戦目での日本タイトル獲得ということ自体は快挙だが、それとともに、世界ランカーに、技術と精神力で勝ち切ったという意味は大きい。
なお、今後、井上のターゲットとなっていくライトフライ級の世界チャンピオンは、2013年8月現在、WBC-アドリアン・エルナンデス(メキシコ)、IBF-ジョンリール・カシメロ(フィリピン)、WBO-ドニー・ニエテス(フィリピン)という状況。そして、WBAは、スーパー王者にローマン・ゴンサレス、そして王者が井岡一翔。
今後、井上陣営としては、世界ランカーとの試合を2試合ぐらいはさみ、まずはWBA以外の王者に照準を絞っていくといったところか。
一部のスポーツ新聞で報道された井岡vs井上戦は、井上が世界王者になってからの方が、盛り上がり度が高いように思う(少なくとも、スーパー王者がいる状況での両者の対決は、道理として、やってほしくない気持ちもある)。
さらに、1階級上のフライ級を見れば、4月にブライアン・ビロリアを破ったファン・フランシスコ・エストラーダ(WBAスーパー王者&WBO王者)がいて、WBC王者は日本の八重樫東、さらにローマン・ゴンサレスが階級を上げてくる可能性もあり、今後さらに面白くなりそうな階級でもある。
ところで、デビュー当初からつけられている、井上の“怪物”という通称。これまでのプロでの足跡を見れば確かに「怪物」なのかもしれないのだが、今後、さらなる強豪と相まみえることを考えると、怪物というイメージからは乖離していくのではないかという気も。端正な顔立ちも含めて、他にもっと合う呼び方があるようにも思う(ボクサーの通称でいうと、荒川仁人の“ベビーフェイス・スナイパー”などはピッタリな呼び名だが)。
例えば、ファンの注目度を上げる意味で、そうした呼び名を一般から公募するという方法もアリなのではないか。
なお、試合の実況・解説についても一言。今回の実況は福永アナだったが、「ほこ×たて」の癖が出たのか、絶えず絶叫口調になっていたのが気になった。F1の実況も担当するなど決してキャリアの少ないアナウンサーではないが、ボクシング実況に関しては、まだ森昭一郎アナ、竹下アナの方が一日の長があるか。
また、解説はダイヤモンドグローブと同じく川島郭志だったが、口調のせいか、若干抑揚が無さすぎるように感じてしまった。試合終盤、「この後、井上に何を期待しますか?」というアナウンサーの問いに対し、「見せてほしい」という漠然とした受けの発言になってしまったのも残念だった。
解説力という意味で言えば、元他局の解説者ではあるが、畑山隆則あたりは、熱さと分析力を持った人物だと感じるので、今後、起用を検討してみてはとも思うが(解説力という意味で一番とも言える浜田剛史は、立場上、フジでの解説は無いので)。
さて、井上vs田口の熱戦を受けて行われた、村田諒太vs柴田明雄(73.0kg契約ウエイト)。
村田が笑いながら入場してくる姿には、ちょっとした衝撃を受けた。
一方の柴田は、画面を通しても緊張が伝わってきた。とはいえ、今年の5月には、体格的に不利だと思われた淵上誠との試合に勝利し、東洋太平洋ミドル級王座を獲得。打たれ脆さに若干不安はあるものの、村田の力量をはかるにはもってこいの相手だと思われた。
試合は、開始直後から村田が強い右をふるい、柴田との距離を潰しにかかる。ライトフライ級のあとに見たため、どうしてもスピード感に欠けるようにも見えてしまったが、様子見の気配はほとんど無く、序盤からガンガン、パンチを交し合う試合に。
柴田もプレッシャーを受けながらパンチを返していくが、ラウンド残り30秒、村田の右クロスが柴田の顎をとらえ、早くもダウン。
立ち上がった柴田は、足を使って、なんとか村田の攻勢を凌いだところで、1R終了。
2Rになっても、村田の攻勢は続く。プロテストでの佐々木左之助との試合を思い出させる、多彩なパンチを繰り出しての攻撃。柴田も応戦するが、その圧力に後退を余儀なくされ、右クロスが再び顎にヒット。そして、一方的な内容と見たレフェリーが試合をストップ。
「2R 2分24秒、村田のTKO勝ち」というのが、ボクシングファンが注目したデビュー戦の答えだった。
リアルタイムで見ていたときはストップが早いようにも思えたが、スローを見ると、最後のパンチを浴びた直後、柴田がフーッと息をついており、なんとか立っているといってもいい状態。またその後、もう一度試合を見直したが、単独でみると、スピードの遅さというのは感じず、村田のプレッシャーの強さを改めて再確認させられた。
村田にとって決して楽ではないと思われた、今回のマッチメイク。
しかしその試合に、ファンの想像を上回る形で勝利した村田。「これが、オリンピック金メダリスト(さらに言えば世界選手権銀メダリスト)の実力か」という、ありきたりな表現をせざるを得ないほど、圧倒的な力を見せつけられた。
こうなると次戦、もし日本人ボクサーで対戦するとなると、先日5階級制覇を達成した湯場忠志、もしくは、この数年、世界の強豪と拳を交え続けてきた石田順裕ぐらいしか、名前が挙がらない。
ただ、打たれ弱さを考えると湯場が勝つ画は描けず(先日、5階級制覇した後のインタビューでの対戦表明は格好よかったが)。また、石田も、果たして村田の強いプレッシャーをさばききれるだろうか(身長面でのアドバンテージはあるが)。
なお、村田陣営としては、次戦は外国人ボクサーとの対戦を考えているとの報道もある。
今回の圧勝劇を見ると、日本人ボクサーと対戦する必然性が薄くなったと判断するのもわからなくはない。ただ、石田との対戦は見てみたい気はするが…。
さて、ダブルビッグマッチと銘打たれた、今回の放送。
「ボクシングの一般への浸透増」という、近年のボクシング界の課題をクリアしていく意味で、注目はその視聴率だった。
前回の放送は6.9%と、物足りない数字。今回はできれば10%以上。最悪8.5%ぐらいは欲しかったところだったが、翌日発表された数字は6.6%と、前回を下回るものだった。
この日は裏番組に、24時間テレビのフィナーレがあり、こちらの数字はなんと30.5%。
このことに影響されて視聴率が伸びなかったと見る向きもあるが、ほぼ同じ時間帯に放送された「シルシルミシルさんデー」(テレビ朝日)の8.8%をも下回ったというのが、今のボクシングに対する一般の認識と考えるべきだろう(おそらく裏番組が「イッテQ」だったとしても、そこまで結果は変わらなかったのでは。ちなみに他の局は、「八重の桜」(NHK)が13.4%、「駆け込みドクター!運命を変える健康診断SP」(TBS)が5.6%)。
やはり、ボクシングの場合、試合が年2~4試合に限られるため、圧倒的に一般へアピールする機会が少ない。
もちろん、本業のボクシングの障害になってしまっては元も子もないが、試合の無い期間における露出・アピールについては、より知恵を絞っていく必要があるだろう。
そういう意味で、今回考えてしまったのは、「果たして、村田・井上に関する強いプロモーションが、ボクシング人気増加につながっていくのだろうか」ということ。
そして、今回明確になった、「世界のスター候補」に打って出る可能性のある村田諒太と、まずは「『ボクシングファンの期待』から『一般にも知られるボクサー』」への道程を歩んでいる井上尚弥の、双方の立ち位置の違い。
村田の3戦目以降はマカオでの開催との話もあり、そうなると、今後、村田と井上の試合は、別々に取り上げられていく可能性も大きい。ただ、そうなると、2人でもそこまでの訴求力を上げることができていない現状、1人で注目度を上げていくことができるかという不安も出てくる。
さらに、もし今後、村田諒太が順調にキャリアを積んだとして、そして世界チャンピオンに手が届いたとして、さらにはラスベガスでメインを張る存在になったとして。
そうなったとしても、「村田諒太自体は脚光を浴びるかもしれないが、必ずしもそれは日本でのボクシング人気上昇にはつながらないのではないか」なんてことも考えてしまった(いつの間にか、フジの中継はなくなり、WOWOWでしか見られないなんて可能性もあり得る)。
これだけ日本に世界王者がいても、その知名度が上がってこない状況を見て、一部のボクシングファンからは「こうなったら、そうしたボクサーは日本とは決別して、ラスベガスを目指せばいい」なんて声も聞こえてくるが、現実的にそうしたことができるボクサーはほんの一握り。というか、限られた数人のみである。
西岡利晃のドネアとの対戦は、可能性が非常に小さな要素が幾重にも重なってようやく実現した、ということを忘れてはならない。
内容的には申し分のない今回の2試合だったのだが、6.6%という数字を見たときに、「これが果たして、ボクシング界の何につながるのだろうか」という、やるせなさも感じてしまった。
タレントの“守られた”マラソンゴールシーンが、ゴングが鳴れば誰も守るものはいない“一対一”の戦いの5倍もの関心が持たれるという現実は、あまり受け入れたくはないのだが。



























