「戦犯探し」ではなく、「『原因の把握』と、その『次への活用』」を
2013年 07月 13日
パ・リーグは大混戦。セ・リーグも上位2チームと下位4チーム同士は競り合う展開と、12球団すべてのファンにとって見がいのある戦いになっています。
そのペナントが始まる前。シーズン開幕までまだ1ヶ月半近くある時期から始動した第3回WBC日本代表。
2月・3月は、「侍ジャパン」の戦いに、多くのファンが注目しました。
親善試合で、いろいろな課題も出たなか、いざ本戦がスタート。
しかし、第1ラウンドからブラジル相手にあわや敗戦かという展開。
結果的には、2勝1敗で第2ラウンドに進出するも、その第2ラウンドの初戦では、台湾に文字通り徳俵いっぱいまで押し込まれて、そこからの大逆転勝利。その後のオランダ戦は2戦とも大勝。
かつてないほど苦しみ、それでも準決勝進出を果たした日本代表ですが、文字通り一発勝負のプエルトリコ戦に1-3で敗れ、ついにベスト4での敗退となりました。
敗退決定後は、日本代表に対し、ファン、評論家、スポーツ紙、一般誌など、各方面から、バッシング、そして批判の声が挙がりました。
ただ、その声は、ペナントが始まり1ヶ月もすると、ほとんど消えていったように思います。
そんななか、そのWBCで2大会連続、内野守備・走塁コーチを務めた高代延博氏の著作が発刊されました。タイトルは『WBC 侍ジャパンの死角』。
なお、高代氏は、前回の第2大会WBCの後にも、著書を出しています。このときの題名は『WBCに愛があった。』。タイトルについては、著者の意向というより、出版社・編集サイドの意見に因るところが大きいと思いますが、実際の結果を表すかのように、前作はポジティブな、それに比べて今作はネガティブとはいかないまでも、ちょっと読み手の心を「エグる」ようなタイトルになっています。
実は正直なところ、今回の著作は、最終結果がああいった形で終わってしまったこともあって、そこまで読む気を喚起されませんでした。
しかし、実際に読み進めてみると、チームの中にいた人でなければわからない、チーム全体の動き、個々の選手の様子、そして新聞報道ではまったくわからなかったことなど、貴重な描写やリアルな思いが綴られており、逆に負けた大会だからこそ、読まれるべき本ではないかと感じました。
なお、タイトルに『侍ジャパンの死角』とあるように、本のなかでは、今大会、また前大会のコーチを務めてみて感じた、日本代表チームを構築していくうえでの改善点、また国際大会自体の改善点についても書かれています。
ちなみに、最終的に今大会敗退の大きなポイントとなってしまった、井端・内川のダブルスチールの、グラウンドレベルでの状況についても書かれています。
この重盗については、いろいろな批判がありましたが、個人的には正直、何が一番の失敗の原因かは判断がつきませんでした。
素人レベルで「重盗の際は、後ろの塁のランナーは前のランナーの動きを見て判断をする」という原則はわかるものの、プロ野球のレベル、またこうした国際試合の舞台において、果たして「グリーンライト(行けたら行け)」というサイン自体が有りなのか無しなのかは、わからなかったからです。
本では、実際のその時の様子について、高代氏の視点で書かれています。すべてを書くと長くなるので、要約すると、
・1アウト、一・二塁のピンチとなった場面で、ピッチャーがロメロに交代
・ロメロが出てきた瞬間、「あの投手だ!」
・事前に、橋上コーチから、ロメロのクイックは1.80秒かかるという報告を受けていた
・「クイックに1.40秒以上かかる投手は、無条件で走らせろ」が野球界の常識
・いくらモリーナが強肩とはいえ、1.80秒もかかるのであればセーフになる
・投手交代のインタバールで、山本監督と梨田ヘッドに重盗のサインを出すことを確認
・緒方一塁コーチが、二塁ランナー井端に駆け寄り、盗塁のサインが出る可能性を示唆
・高代コーチが、井端に「2球目で」のサイン
・なお、盗塁自体は、もともと「グリーンライト(行けたらいけ)」の指示
・2球目、井端がスタート。しかし1歩か1歩半遅れたスタート
・「行けたら行け」のため、井端自重して二塁に戻る
・しかし、内川が井端のスタートにつられ、そのまま二塁へ
・飛び出した形になり、内川タッチアウト
とのことでした。
なお、「行けたら行け」という指示自体については、「何が何でも走れ(Thisボール)」という指示はスタートが遅れた場合にリスクが大きい、自分は6球団を渡り歩いてきたが「Thisボール」のサインを作っている球団の方が少なかった、という見解。
そして、内川に対して、事前に「無理して行くなよ。ひょっとしたら井端が止まるかもしれないから、そこに注意しておけよ」と一言言っておくべきだった、と悔いています。
また、試合後の山本監督の「あそこで行けたら行けのサインを送り走らせたことは間違っていない。悔いはない」とのコメントには、「監督は、スタッフの責任も選手のミスも、すべてを背負いこんでくれた」という思いだったとしています。
ところで、どうしてもこのプレーばかりが、敗退の象徴的なシーンとして取り上げられ挙げられますが、この試合の大きな敗因として、相手先発のサンティアゴを打てなかったことも挙げられます。
そのサンティアゴ対策としては、事前に橋上コーチから「バッティングカウントになった時に困ったら、右打者はスライダーを、左打者はチェンジアップを狙ってください。ただし、どちらも狙う時にゾーンを一つ上げておくように」という指針が出ていたそうですが、左打者がチェンジアップを追いかける結果になったことを考えると、「ゾーンを一つ上げて」という部分が打者から抜け落ちてしまったのでは、と振り返っています。
また、これは、のちに記事で指摘していたマスコミもありましたが、モリーナの9秒投球術にやられたとも書いていました。
なお、今回紹介した2つの事例は書かれているものの一部であって、他にも現場でしか知り得ないことが、数多く書かれています。
・MLB選手の参加交渉の役割は、NPB事務局ではなく、ほぼ山本監督一人が担っていた
・中島は、チームがOKならば、参加する腹積もりでいた模様
・事前に何人か故障が癒えていないことがわかったため、追加招集も検討していた
(本で挙げられていたのは、オリックス・金子)
・キャプテン阿部の負担を軽くするため、事前に稲葉・松井・井端らにサポートを頼んでいた
・肩の状態を間に合わせるために、九州と東京を日帰り往復して治療に費やした前田健太
などなど。
一方で、美談ばかりを載せているのではなく、山本浩二監督の、外部からではわからない「人としての器の大きさ」への感慨を述べる一方で、「現場で指揮をとっていないことでのブランク」についても指摘をしています。
また、フライデー事件については、事前に「各マスコミが狙っているので注意するように」と選手に通達していたにもかかわらず、ああいった事態になってしまったことについて「裏切られた思い」とも書いています。
本書は、あくまで高代氏の視点で書かれたものであって、もしかしたら、同じチームにいた選手・コーチでも、認識が違うこともあるかもしれません。
しかし、無責任な批判記事や意見も少なくなかった今回のWBCにおいて、内部にいた人の「リアル」な意見として、非常に貴重かつ、今後の国際大会やNPBのあり方を考えるうえでのヒントが数多く詰まった本だと思います。
ちなみにですが、今回、WBCの監督に山本浩二氏が就くことについては、個人的には反対でした。
しかし、当初、就任を要請された秋山監督が、チームの現役監督であることもあり、拒否。現役監督でない人物のなかでは最も近年の実績がある落合氏も、事前に固辞を表明。さらに、現場勘があり実績的には落合氏の次とも考えられた梨田氏には、打診自体が無し。
という状態では、最終的には山本浩二監督という人選も、仕方が無かったのかなとも、今となっては思います。
(なお、マスコミでその名も取り沙汰された野村監督については、実績的には申し分ないものの、78歳という年齢、また個性の強い若い日本代表をまとめられるかという問題、また「野球の日本代表は、監督ではなく選手がスポットを浴びるチームになってほしい(必ず「野村JAPAN」と書くマスコミが出てくるので)」という理由で、個人的には就任してほしくありませんでした)
詰まるところ、「山本監督の就任」ということ自体が、今の日本の「野球力」だったのではと思います。
それがいいにせよ悪いにせよ、今の日本野球が現実的に取り得る策がそうであった以上、それが現時点での「日本野球力」と考えるしかないのではないでしょうか。
それゆえに、今回、明らかになった問題点を今後にどう生かすか。それがNPBはじめ、日本野球に携わる人に求められてくるものだと思います。
なお、「批判」ということでいうと、少し野球からは離れますが、今号の「サッカー批評」の特集が興味深いものでした。
そのテーマは「サッカー監督の正しい叩き方」。副題は「的外れな批判が日本のサッカーをダメにする」。
購入したばかりなので、まだ全部を読むことはできていませんが、特集巻頭に書かれた一文が印象に残りました。
「大切なのは、本人を前にして言えないことは他では言わないし、書かないこと。それが最低限のマナー」
これを書いたのは編集長の森哲也氏。いわゆる“プロ”側の人なので、必ずしもこのことが全ての人に当てはまるわけではないかもしれません。
ただ、いわゆる“プロ”側の立場にいる人でも、無責任な批判をする人はいたりしますし、このブログは、あくまで一ファンがやっているブログ(以前、スポーツ本の編集などの仕事をしていたことはありますが)ですが、“表に見えているものだけをとらえての批判”や“批判したいがためだけの批判”は、極力しないようにしていきたいと思っています。
もちろん、統一球変更隠蔽問題や、今後の組織運営、さらには再来年に開催が予定されている「IBAFプレミア12」にどういった形で参加をしていくのかなど、取り組むべき課題が山積しているNPBについて、疑問の提起などをするケースはあるかもしれませんが、それでも、表面の事項だけをなぞっての意見は書かないよう、意識を持っていたいと思います。



























