山中慎介が見せた本当の「強さ」と今後の日本ボクシング界の大課題
2013年 04月 13日
王者・山中慎介が、3度目の防衛戦としてランキング1位マルコム・ツニャカオ(フィリピン)を迎えた一戦。
初回から、両者、激しい攻防を見せ、過去2度の防衛戦でダルチニャン、ロハスと強豪に完勝した山中にとっても、決して易しい相手ではないと思わせた序盤。
しかし、そんなスリリングな攻防が続いた3R。山中の左がツニャカオの顔面を打ち抜く。
たまらずダウンし、「喰らってしまったか」といった表情を見せるツニャカオ。ここは立ち上がったものの、ラスト10秒という状況で、さらに山中の猛攻を受け、2度目のダウン。それでも意識はハッキリしていたため、ゴングが鳴り、KOを免れる。
ハイレベルな相手に対し、3Rという早い段階でダウンを奪う山中のボクシング力に改めて驚かされた試合前半。
その後も、相手の間合いを見切るようなディフェンスも含め高レベルのボクシングを見せる山中だが、ツニャカオも「当たったら、もしかして…」と思わせる右パンチを含め、簡単に山中に主導権は渡さない展開。
中盤は、山中がパンチを出すのを控えたところもあり(のちの報道で、7Rに左拳を痛めたことが判明)、ツニャカオが獲ったと思われるラウンドも。
しかし、10Rには、ツニャカオの右目上の傷が大きくなったこともあり、見た目にも挑戦者がかなり劣勢の様相に。
そして迎えた最終回12R。右目周辺が血で真っ赤に染まるツニャカオの顔面へ、山中が右フェイントから、左→右→左のワンツースリーを打ち込み、ツニャカオ3度目のダウン。
ここでレフェリーが試合をストップ。山中が、またもやファンに「強さ」を見せつける内容でV3。
それにしても、これぞ「世界戦」というべき、ハイレベルな攻防。
2001年にポンサクレックに敗れて世界タイトルを失った後、12年にわたり世界王座復帰のチャンスを待ち続けた(その間、実に24戦を戦い21勝(13KO)1敗2分け)ツニャカオも、ランキング1位にふさわしいその実力を見せたこともあり、見ている側も、つい首を動かしてしまうほどのスリリングな戦いだった。
さて、この試合、山中の試合内容とともに、もう一つ注目していたのが視聴率。
今回は、ふだん日本テレビで放送している「人生が変わる1分間の深イイ話」内での放送。通常時期にしてはあまり無い、バラエティ番組とコラボレーションという形で、日本テレビとしては、トライ的な意味合いが強い作りだったが、ある種の期待はあった思う。
こうした形に不満を覚えたボクシングファンもいたようだが、ボクシングの世界戦が以前より注目度が低くなっている現状、こうした試みをやってみる価値はあるとは思った。
番組内容も、世界王者7人を呼んでのトークを盛り込む形。司会の今田耕司も以前パンクラスの道場に通っていたこともあり、世界王者という存在に敬意を払っての進行ぶりだったと思う。
そして、翌日発表された視聴率は、7.2%。
試合内容が白熱したこともあり、二桁は行くと思っていたのだが、残念な結果に終わってしまった。
この日は、裏番組で、フジテレビがSMAPの特番を放送しており、こちらは視聴率が20.0%と、それまで放送していたドラマ「ビブリア古書店の事件手帖」の平均11.4%から9%近く上がったので、その影響を受けた可能性もあるかもしれないが、月曜日ということで、プロ野球が無かった(正確には1試合はあったが)といったことも考えると、もう少し数字が伸びてほしかったところ。
前々回の防衛戦(ダルチニャン戦)の視聴率は、長谷川穂積の復帰戦・粟生隆寛の防衛戦とのパッケージという形(放映は19~21時)で8.9%だったのだが、それより低かったのは、新たな試みにチャレンジした日本テレビにとっても予想外だったのでは。
なお、この前日、日曜日にTBSで放送された亀田興毅の防衛戦は、11.2%。
こちらは、前回の暫定王者ルイス戦の20.5%から、半分近くの下落。
対戦相手が2度にわたって変更され、「おそらく亀田の判定勝ちだろう」と試合前の興味が薄い試合だったこともあるが、試合内容も含め「亀田ブランド」自体がかなり低下している可能性もある。今後、亀田と日本人ボクサーの対戦があったとしても、以前ほどの盛り上がりは起こらないかもしれない。
(なお、自分はその時間、家にいなかったこともあり、HDD録画を、消音モードで実況・解説を一切聞かずに見た。自分の判定では亀田に甘く見積もって、パノムルンレックの4ポイント優勢だったが、倒さない限りパノムルンレックの勝利は無いと思っていたので、亀田の勝ちは予想通り。虚しさだけが残る“悲しい試合”)
さて、4月8日の両国国技館の話に戻って、実はこの日は、山中の試合を含め、五十嵐俊幸(王者)vs八重樫東のWBC世界フライ級タイトルマッチ、さらにガマリエル・ディアス(王者)vs三浦隆司のWBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチも行われるという、トリプル世界戦の興行だった。
しかし、山中以外の2戦は、地上波では深夜2時からの放送、普通に見られる時間帯としてはCS放送のジータスのみでの放送ということで、ボクシングにあまり関心が無い人の目には、スポーツニュースぐらいでしか露出がなかったといってもいいだろう。
試合自体は、五十嵐vs八重樫戦は、八重樫が序盤の鋭い踏み込みで主導権を握り、過去アマチュアで4戦4敗の五十嵐に対し雪辱を果たす格好で王座奪取。
対する五十嵐も11R、八重樫の右フックに腰が砕けながらもなんとか踏みとどまってダウンを拒むなど、両者の意地が前面に出た一戦だった。
その前に行われた、ディアスvs三浦戦は、三浦が粟生から王座を奪ったディアス相手に、3Rにカウンターの左をねじこみダウンを奪う展開。
その後も、なんとかクリンチなどでかわそうとするディアスに対し、強打をヒットさせ、6R、7Rにもダウンを奪う三浦。
そして9R、左ストレートで4度目のダウンを奪ったところで試合終了。
2年前、内山高志にTKO負けを喫し届かなった世界タイトルをついに手に入れた。
2試合とも素晴らしい内容で、日刊スポーツなどは1面で「トリプル面白すぎた世界戦」という見出しまでつけて大々的に扱ってくれたのだが、正直、この2戦を見終えときは複雑な感情だった。
八重樫も、三浦も、これだけ素晴らしい試合をしても、次の試合も地上波で放映されない可能性がある。
試合内容的に華のある山中でさえも、バラエティ番組とのコラボなど、その露出の方法を試行錯誤しているなか、果たして、そこまで華があるとは言えない世界チャンピオンの場合、王者に相応しい評価を受けられる状況を作ることはできるのだろうか。
2人の新王者が、決して魅力の無いボクサーではないがゆえに、余計に歯がゆい気持ちが残った。
ボクシングの世界チャンピオンの認知度低下が論じられる際には、以前に比べて階級が多くなったことがよく指摘される。
また、日本が長年認めてきた、WBA・WBCの2団体以外のIBF・WBOでも実力のあるボクサーがチャンピオンに就くようになり、チャンピオンの価値が昔より低くなったことが原因とする意見も多い。
ただ、階級の問題に関しては、ファイティング原田の時代と比べればもちろん比べるまでもないが、最も新しい階級であるミニマム級(ストロー級)でも、すでにその設立から25年以上経っている。
80年代に比べても世界チャンピオンの認知度がかなり低くなっていることを考えると、そのことだけが王者の地位低下の原因とも思えない。
また、団体の増加に関しても、辰吉がWBCバンタム級の世界チャンピオンとなった時、同じバンタム級のIBFには、最終的に16連続防衛をしたオルランド・カニザレス(アメリカ)という「事実上の同階級最強」といわれる世界王者がいたが、そのことが辰吉人気を低下させる原因にはならなかった。もちろん、カニザレスの存在自体を知らない日本人が多かったことが大きいが、今でも「IBF・WBOもあるので、世界王者といっても…」といった見方をする“一般の”ファンはあまりいないといっていいだろう。
この2つの「理由」については、ボクシングファンが、過度に考えてすぎているようにも感じる。
実際のところ、今の世界チャンピオンの認知度低下は、以前よりも多種類のスポーツの存在がクローズアップされるようになったこと、さらにはスポーツ以外のジャンルも含めて、それぞれが興味のある分野が多様化していることが、大きな原因だと思う。
世界チャンピオンの「強さ」の面から言えば、山中の強さが、過去の日本人世界王者ボクサーに比して遜色あるとは思えない。むしろ、かなり上位に位置する方であろう。
また、2005年から5年間にわたって10連続防衛を成し遂げ、さらに飛び級で2階級制覇を果たした長谷川穂積。また、ラスベガスで日本人初となる王座防衛を果たし、しかも階級差を度外視すれば“現役最強”のボクサーの一人とも言われるノニト・ドネアとの対戦も果たした西岡利晃。また、3年間6度にわたって防衛を重ね、いまだ無敗の“ノックアウト・ダイナマイト”内山高志も、過去の日本人王者のなかでも、かなりレベルの高いチャンピオンである。
しかし、テレビでの露出という点で言えば、世界王者同士の戦いとなった長谷川vsモンティエル戦でも8.9%の視聴率だったこと、また内山の世界戦はすべてテレビ東京系での放送、西岡もその世界戦の半分がWOWOWまたはテレ東での放映だったということを考えると、これらのチャンピオンの存在を知らない人もかなりいるだろう(正直、自分の周りを考えても、残念ながら、長谷川・西岡・内山を知らない人は多い)。
現在、日本には、内山高志、山中慎介、佐藤洋太、河野公平、宮崎亮、高山勝成、三浦隆司、八重樫東と8人の世界王者、そしてスーパー王者がいる階級での2人の王者、井岡一翔、亀田興毅がいるが、日本人のほどんどが知っている王者は、井岡と亀田だけではないか。
なお、ちょっと記憶をたどって、大体の人が知っている世界チャンピオンとなると、畑山隆則(世界王者在位:98~99、00~01)まで遡らなければいけないかもしれない(なお、世界チャンピオンではないが、世界戦で畑山と戦った坂本博之の認知度は高いかも)。
その後は、在位期間が長く、技術的にも相当高いものがあった徳山昌守が強いて、といったところ。内藤大助については、亀田大毅戦があって初めてみんなが知った部分が大きく、もしその対戦が無ければ、ほとんどの人に知られないままボクサーを辞めていた可能性は高い。
さらに、畑山より前となると、年代的に90年代からボクシングを見始めた自身の記憶からすると、大橋、井岡(弘樹)、辰吉、鬼塚、平仲、ユーリ、薬師寺、川島、竹原といったところが、ある程度の人が知っているボクサーといえるだろうか(レパード玉熊も意外と認知度があったりするが)。
なお、上記に挙げなかった90年代以降、世界王者となったボクサー(日本のジム所属)は、畑中、ナザロフ、山口(圭司)、飯田、戸高、星野、セレス小林、新井田、佐藤(修)、イーグル京和、川嶋(勝重)、越本、名城、坂田、(ホルヘ・)リナレス、小堀、粟生、石田〔暫定王者〕、李冽理、下田、清水、五十嵐といった面々である。
そうしたなか、来週16日(火)に、プロ3戦目となる“ゴールデンボーイ”井上尚弥の試合が、フジテレビのゴールデンタイム(19~21時)に放映される。
フジテレビとしては、渡辺雄二の世界戦以来、21年ぶりとなるゴールデンのボクシング中継となり、正直かなり思い切った放映決定という印象。
また、当日は、オリンピック金メダリストの村田諒太のプロテストも生中継されるとのこと。
これもほぼ前例の無い試みで、ボクシングファンとして、その露出が増えること自体は嬉しいが、先日の山中の熱戦であの視聴率を考えると、怖い気持ちもある。
フジテレビのことなので、芸能人を多数起用しての番組作りが予想されるが、バラエティとボクシングの相性はいかに。時間帯からして、帰宅の遅いサラリーマンは見られないので、そこも心配ではある。
ただ、いずれにせよ、どうにかして、この世界王者が世界王者として認知されにくい状況は打破したいところ。
20年前、ボクシングの魅力に取り憑かれてしまった身としては、時代が変わったとしても、“自身で道を切り開くしなかい”、そして時として“その人間の生き様を映す”ボクシングというスポーツには、人の心を動かすものがあると信じたいし、本当の「強者」が強者たる評価を得る日が来てほしい。



























