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それぞれの戦いの意味 -5/20・21 ボクシング世界戦レビュー-

先週末の5月20日・21日。2日間連続で、有明コロシアムでボクシングの世界タイトル戦計5試合が行われた。
複数の世界タイトルを同一興行で行うこと自体は当たり前になった近年だが、2日連続というのは、過去にもほぼ前例のない試み。
放映するフジテレビも、事前のプロモーションにかなり力を入れ、ボクシングの試合には珍しく、ターミナル駅での大々的な電子公告も見た(ヤングジャンプやFLASHの裏表紙にも広告が載っていた)。
結果、各試合の視聴率は、20日・1部(比嘉大吾の世界戦etc)=9.5%、20日・2部(村田諒太の世界戦)=17.8%、21日・1部(八重樫東の世界戦)=8.2%、21日・2部(井上尚弥の世界戦)=9.7%だったとのこと(数字は関東地区)。
15%を超える視聴率は、ふだんボクシングを見ない層も観ていたといえ、これまで地道に村田諒太を追ってきた取り組み、またプロ転向後のマスコミへの露出などが実った結果と言えるだろう。
また、このほか、20日には、名古屋で田中恒成の世界戦も行われた。

少し、時間が経ってしまったが、この6つの世界戦について、一戦ずつ振り返っていきたい(( )内の数字は、世界戦前のランキング)。


●WBO世界ライト・フライ級(48.97kg)タイトルマッチ

田中恒成(王者) vs アンヘル・アコスタ(1位・プエルトリコ)


ライトフライ級王者として初の防衛戦となる田中が、16戦全勝16KOのアコスタを迎え撃った一戦。相手の戦績という意味では、6試合のなかでもっともスリリングな戦いが期待されたのが、この名古屋での一戦だった。
前戦は関東での放送がなかった田中だった(無料動画の放送はあり)が、今回は、土曜夕方という放送時間ながら、関東でも放映。
試合は、期待に違わぬスリリングな内容となった。田中自身、ハイレベルな技術をもつボクサーながら、一方でダウン経験もあるなど、ところどころ隙も垣間見られるボクサー。それでも、21歳という若さから来る勢いなのか、それとも元来持っている性分なのか、キャリア全KOの相手に怯むことなく挑んでいく。一方のアコスタもスピード感あるパンチを放ち、好戦的な2人の戦いは、予想どおりの好試合に。
そんななか、流れを一気に引き込んだのは、5回に田中がコンビネーションでアコスタから奪ったダウンだった。その後、アコスタも必死の挽回で手を出し続けたが、攻撃のバリエーションに加え、この日は危ない位置をいちはやく回避するディフェンスも冴えた田中が、5~7ポイント差の3-0で判定勝利。
試合後には、解説を務めていた、同級のWBA王者・田口良一をリングに上げ、年内での統一戦をアピール。前回のフェンテス戦に続き、評価の高い相手を下したその実力は、井上尚弥が一手に脚光を浴びるなか、静かながら、ボクシングファンのなかで、じわりじわりと評価が高まっていると言えるだろう。
なお、試合後のややぶっ飛んだコメント(同種のコメントをするボクサーに、ユーリ阿久井がいるが)も、本人のキャラとして認知されていくと、さらに知名度も広がっていくかもしれない。


●WBC世界ライト・フライ級(48.97kg)タイトルマッチ

ガニガン・ロペス(王者・メキシコ)vs 拳四朗(4位)


昨年、木村悠を下して王者となったロペスに、ここまで負けなし(9戦全勝5KO)の拳四朗が挑んだ一戦。
残念ながら、テレビ中継では12Rしか放送されなかったため、試合全体の内容はわからず(翌日のダイジェスト放送でも、流れたのは1Rと12Rのみ。今後、深夜帯での再放送は予定されていないのだろうか)。
ただ、その12Rは、かなりの激戦だった。まだキャリア9戦ということで、実力のほどが測りかねるところもあった拳四朗だが、9戦目での載冠は見事と言える。総合的にバランスがとれたボクサーゆえに、わかりやすいアピールポイントというのが無いところに、少し物足りなさもあるが、今後、キャリアを重ねていくなかで、拳四朗スタイルとでも言うべきものも確立されていくだろう。
いずれにせよ、とてもボクサーとは思えない風貌も含め、今回の中継のような扱いをされるのはもったいない選手でもある(あれだけ少年のようなピースサインが似合う選手も、なかなかいない(^^))。チャンピオン獲得が決まった後、父親の寺地永(元・東洋太平洋ライトヘビー級王者)とのベルト掛け合いは、なんとも微笑ましいものがあった。
なお、同階級は日本の世界王者が多い状況ではあるが、次戦はペドロ・ゲバラ(八重樫東との世界戦で王座獲得。その後、木村悠に敗れ王座陥落)との指名試合の可能性が高いとのことである。


●WBC世界フライ級(50.80kg)タイトルマッチ

フアン・エルナンデス(前王者・メキシコ)vs 比嘉大吾(1位)


ここまで12戦全勝全KOという快進撃を続けてきた比嘉が、念願の世界王座に挑んだ一戦。ところが試合前日、王者のエルナンデスが計量で体重超過となり、戦わずして王座を剥奪される。近年、たびたび繰り返される世界戦での失態に、かなりの憤りを感じた。
ただ、先日、同じく体重超過で王座剥奪となったマーロン・タパレスに大森将平がKO負けを喫するといった例もあるように、王座を剥奪されたからといって、相手のモチベーションが落ちているとは限らず(逆に、卑怯ではあるが、体重オーバーの状態でのアドバンテージの側面もある)、かなりの警戒を要する一戦とも言えた。
試合は、1R、エルナンデスが軽快な動きを見せる。比嘉も、ロープへと追い込んでいくが、まだエルナンデスのスピードには追い付かない印象。それでも、1Rを終えての比嘉の感触は「これなら、つかまえられる」だったとのこと。
その後、じわりじわりとプレッシャーをかけ、エルナンデスを追い込んでいく比嘉。2R、タイミング入ったパンチで早くもダウンを奪う。このダウンはあまりダメージが無かったものの、その後も、徐々にエルナンデスを追い込んでいく比嘉(そのなかで、4R終了時の採点が、2-1でエルナンデスがリードというのは、少し意外だった)。
そして5R、再び、比嘉はダウンを奪う。続く6Rも攻め続け、計6度のダウンを奪った比嘉が、体重超過の失態を犯した元王者に完勝。白井・具志堅スポ―ツジム初の男子世界王者となった(あの名護明彦が世界に初めて挑戦した年から17年……)。
今回、持ち前の猛々しさを如何なく発揮し王座を獲得した比嘉だが、オフモード時の発言は、愛嬌もあってなかなか面白い。どうみても片岡鶴太郎にしか見えない(?)風貌とも相まって、ふだんボクシングをあまり見ない人にも十分関心をもってもらえる可能性を秘めているボクサーだと思う。
試合後は、選手、会長とも、同級のWBA世界王者である井岡一翔との統一戦への意欲を口にした。比嘉にはまず防衛戦を行ってほしい気もするが、「どちらが勝つかわからない」という意味で、個人的にかなり興味深いマッチメイクでもある。ロマゴン戦回避や「最強をめざす」という発言と実際のマッチメイクとの乖離により、ボクシングファンの支持を失っている井岡にとっても、やる意味の大きい試合となるだろう。ただ、統一戦は大歓迎だが、もし比嘉が勝った際、その後で、悪しき“TBSロード”(強い相手を徹底的に避け、ボクシングをあまり見ない人に対しては、同階級の強者の存在を隠す戦略)だけは歩んでほしくない。


●WBA世界ミドル級(72.57kg)タイトルマッチ

アッサン・エンダム(1位・フランス)vs 村田諒太(2位)


ロンドンオリンピック金メダリストという肩書をひっさげ、プロ転向。正直、世界の強豪との差を測りかねる対戦相手に対し、それでも、自身のボクシングスタイルを試行錯誤しながら、12の試合(全勝・うち9KO)を重ね、プロ転向4年目・31歳にしてたどりついた世界戦の舞台。
相手は、35勝(21KO)2敗、喫した2敗は、クイリン、レミューといった強豪に喫した敗戦、というアッサン・エンダム。
村田が、これまでマッチメイク的に世界のトップとの本当の実力差を測る試合をしていないとうこともあり、ミドル級隆盛の時代における同級王者誕生への“期待”と、ともすると「惨敗を喫する可能性も……」という“不安”が混在するなか、試合は始まった。
1R、ジャブを中心に手数を出すエンダムに対し、パンチを全く出さず、しかし静かにプレッシャーをかけていく村田。そして、ラウンドがもう終わろうかという時間帯で出した村田の右ストレートに会場がどよめく。2R・3Rと、村田の手数は少し増えてくるものの、基本的にはエンダムがパンチを出し、村田がじりっじりっと間を詰める展開は変わらず。自分は、客観的視点を確保するためにも村田に厳しめの採点をしていたが、この3Rまではすべてポイントをエンダムにつけてもおかしくないと思っていた。
そして迎えた4R、ついに村田のパンチが火を噴く。カウンターのようにも見えた右ストレートがエンダムを直撃し、エンダムたまらずダウン。“この一発でKO”というほどのダメージではなかったが、相手のメンタル面の含め、かなり効果的な一発となった。その後は村田が攻勢を強め、エンダムもパンチこそ出すものの、逃げパンチに近く、試合の主導権は村田、というラウンドが続く。途中、エンダムが前に出てくる場面もあったが、終盤以降は、エンダムがKO負けを拒否するだけの為に戦っているようにも見えた。
KO決着こそならなかったものの、これまでの手厚いサポート体制とミドル級のタイトルマッチを組めることの難しさを考えると、負けが許されないという厳しい状況で、ほぼパーフェクトといってもいい内容で「勝利」という結果を掴む戦いを見せた村田(個人的な最終判定は、村田の5ポイントリード)。
しかし、判定のシーンで最初に名前を読み上げられたのはエンダムだった。「えっ……」という思いがよぎるなか、続くジャッジは村田の優勢。迎えた3人目のジャッジのスコアは115-112。そして、読み上げられた名前はエンダム……。
ほぼ「完勝」といってもいい戦いを見せたにもかかわらず、「負け」とされた村田。日本のボクサーの世界戦での判定では、久々にやり場のない思いを感じた試合となってしまった。
判定の是非については、ボクシングファンのなかで「エンダムにつける理由もわかる」という意見も少数あるようだが、個人的には完全な“誤審”だと思う。
「なぜこんな大事な試合で……」という思いとともに、日本のボクサーだけに限らず、大きな世界戦でたびたび見られる、命を削って戦っているボクサーの努力と思いを台無しにする「ありえない判定をするジャッジ」の存在に怒りを感じた。
今回、「WBA」におけるジャッジの不確実さというところに焦点が当たっているが、以前のブログでも書いたパッキャオvsブラッドリー第1戦(WBO世界スーパーライト級タイトルマッチ)のように、WBAに限らず、“誤った判定”という事態はたびたび起こる。最近では、ローマン・ゴンサレスvsシーサケット・ソールンビサイ(WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ)、コバレフvsウォード(WBA/IBF/WBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ)も物議を醸す判定となった。結局のところ、その判定を下した理由は個々で異なるのだろうが、「きちんとした判定をつけられないジャッジが存在する」というのは、現在のボクシング界の厳然たる事実である(最終結果には影響ないものの、2-1の「1」に属する判定で、とんでもないポイント付けをしているジャッジも含めると、さらにその数は多くなる)。
今回の村田の一件では、試合翌日、WBAの会長が、ジャッジへの批判と再戦指示の声明を出したが、試合後の村田のコメントを聞いてもわかるように、この一戦に賭けてきた村田の心情からすれば、「じゃあ、再戦します」とすぐに言えるほど、簡単なものではないだろう。救いは、本人曰くボクシングマニアの側面も持つ村田が、ボクシングでは、こうした判定が実は珍しくないことを、おそらく理解していると思われるところだが、いい加減、ボクシング界にとってマイナスの側面しかもたらさないこうしたジャッジに、ボクサーが振り回される“悪弊”は断ち切ってほしい。


●IBF世界ライトフライ級(48.97kg)タイトルマッチ

八重樫東(王者)vsミラン・メリンド(暫定王者)

IBF世界ライトフライ級のベルトを獲ってから3度目となる防衛戦。相手のメリンドは、35勝2敗というキャリアを持つものの、2013年以来、KO勝利はなし。八重樫が世界タイトル戦で勝利したハビエル・メンドーサに負けている相手、ということもあって、八重樫の勝利を予想していた人は多かったと思われる。
しかし、試合は3分を待たずして終わった。試合によって戦い方が変わる八重樫。今回は打ち合いかアウトボクシングか、まだどちらともとれないなか、1R中盤、メリンドのコンビネーションで八重樫ダウン。この時点ではそこまで効いているようにも見えなかったが、さらに攻めかかるメリンドの左アッパーで、八重樫再びダウン。明らかにダメージの残る八重樫は、クリンチに逃げることもできず3たびダウンを喫すと、そこで試合終了となった。
試合後のコメントでは、「こんなダメージのない終わり方は初めて」と語った八重樫。1R、体が温まっていいないなか食らったパンチによる結果と見る向きもあるが、これまでの激戦を考えると、「果たしてその影響は無かったのか……」とも考えてしまう。エドガル・ソーサ戦での出入りのスピードを重視した戦いならいざ知らず、ポンサワンに勝って初の世界タイトルを獲った時から6年間、階級を上げ下げしながら12試合もの世界戦(ノンタイトルを含めると15試合)を戦ってきた体をそろそろ休めてほしい思いもある。
長谷川穂積のキャリア後半を見ても、ボクサーの“引き際”というのは、本当に難しいものだとは思うが……。


●WBO世界スーパーフライ級(52.16kg)タイトルマッチ

井上尚弥(王者)vsリカルド・ロドリゲス(2位・アメリカ)


20日・21日の世界戦ラッシュのトリを飾る戦い。
その前の試合で八重樫が衝撃の敗戦を喫したこともあってか、試合前の井上の顔には、ひとかけらの油断もないように見えた。
正直、相手とは3段も4段も格が違ったといっていいだろう。2Rでは、今後の戦いを見据えてか、サウスポースタイルも披露した。その「パワー」で見ているものに衝撃を与えたパレナス戦の時とはまた違う、強さの“奥行き”を感じさせる一戦でもあった。
なお、中継では、次戦(9月)でのアメリカ進出、そして1階級上の世界王者・山中慎介との一戦の可能性に触れていた。
「今後の展望は明るい」と書きたいところだが、ロマゴンがまさかの敗戦を喫したことで、アメリカ進出の具体的な“画”は、正直まだ見えてこない。
体重面のこともあり、ロマゴンとの対戦の可能性はかなり少なくなったとも思われるなか、個人的には、クアドラスとのアメリカでの対戦を実現させてほしいとも思っていた(なお、クアドラスとロマゴンの一戦は、クアドラス勝利でもおかしくなかったと思っている)。
ただ、そのクアドラスはエストラーダと暫定王座戦を行うとのこと。その後、シーサケットとロマゴンの再戦が行われ、さらにその後に、双方の勝者が対戦するというスケジュールが濃厚、ということで、ロマゴンの傷の回復具合もあって、前記の4人と井上が対戦できるのは、年内はほぼ難しいと考えられる。一方で、井上がスーパーフライ級に留まるのはそろそろ厳しいという声もあり、バンタム級転向も現実味を帯びてきている。
ただ、現在のIBFバンタム級王者・ハスキンスがイギリスを出て井上と対戦することは考えづらく、一方で、同級WBO王者テテの対戦だと、ネームバリュー的にアメリカでは厳しい。
そうなると、山中慎介との一戦が実は可能性が一番高いとも思えてくるが、長い目で見ると、井上が目指すべきは、国内のパウンドフォーパウンドを決める一戦の実現よりも、アメリカでの世界的強豪との対決である。
それこそ、こうなってくると、2階級上げてリゴンドウとやったらどうか、なんてことまで考えてしまうが、とにかく、“世界進出”という意味では逆風が吹いている今の風向きがなんとか変わってほしい。
井上尚弥といえど、人間である。年齢的・キャリア的には、まだまだこれからの可能性を秘めた選手ではあるが、モチベーションの面で、「先」が見える状況づくりをまわりが作ってあげることは、今後の日本ボクシング界にとっても、非常に大きな意味を持つ。


以上、世界戦6試合を振り返ってみたが、今回の複数タイトル戦で、既存のボクシングファン以外の人で、ボクシングへの興味度を増した人はどれぐらいいただろうか。
今回の興行の評価の“判定”材料は、「数年後のボクシング界の状況」かもしれない。


by momiageyokohama | 2017-05-26 01:45 | ボクシング | Comments(0)

「読んだ方が野球をより好きになる記事」をという思いで、20年目に突入。横浜ファンですが、野球ファンの方ならどなたでも。時折、ボクシング等の記事も書きます。/お笑い・音楽関連の記事はこちら→http://agemomi2.exblog.jp/


by もみあげ魔神
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